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過食・高脂肪食摂取による肥満から誘発の肝疾患、発症制御因子を同定-京大ほか

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2023年01月20日 AM11:07

有効な治療法が確立されていないNASH

京都大学は1月18日、過食・高脂肪食摂取により誘導される脂肪毒性から、生体内でその時、産生される中鎖脂肪酸とGPR84受容体が肝機能保護に働くことをマウス実験によって明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の木村郁夫教授(東京農工大学大学院農学研究院特任教授)、大植隆司同助教、東京農工大学大学院農学府の野仲葉月大学院生(研究当時)、京都大学大学院薬学研究科大学の西田朱里院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

肥満により誘発される脂肪肝である非アルコール性脂肪性肝疾患()の有病率は、高いことが知られている。NAFLDには単純性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪肝炎()が含まれ、NASHは、炎症や線維化形成の進展により肝硬変や肝がんへと進行する。しかし、一部の脂肪肝からNASHに進展する機序は正確には知られておらず、これまでに有効な治療法は確立されていない。

MCTオイル経口摂取はGPR84を介し血糖値抑制、内因性中鎖脂肪酸のGPR84への影響は?

GPR84は、中鎖脂肪酸の受容体として発見されたが、その生体における機能は正確にはわかっていなかった。なぜなら、内因性中鎖脂肪酸の血中濃度が低いため、本来の生体内で中鎖脂肪酸によりGPR84を十分に活性化することはできないと考えられていたからだ。中鎖脂肪酸は、脂肪酸の中でも、炭素数が8から12程度の飽和脂肪酸で、食用油として中鎖脂肪酸を構成脂肪酸として持つ中鎖脂肪酸油(MCTオイル)が知られている。MCTオイルは、脳機能改善作用や抗肥満効果、医療現場では栄養補助や小児てんかん発作等の食事療法に用いられているが、その正確な作用機序は、いまだ明らかになっていない。

研究グループは、以前から、短鎖脂肪酸(食物繊維や腸内細菌)や長鎖脂肪酸(飽和脂肪酸:動物性脂や不飽和脂肪酸:植物性油)と、その生体内受容体であるGタンパク質共役型受容体、脂肪酸受容体による栄養シグナルの研究を行っている。この観点から、2022年に経口摂取したMCTオイル(特にカプリン酸)が、GPR84を介して腸管ホルモンGLP-1の分泌により血糖上昇を抑制することを明らかにした。そして、今回はさらに、本来のGPR84の生理的意義を明らかにするために、内因性中鎖脂肪酸によるGPR84に対する影響について踏み込んだ研究を進めた。

高脂肪食摂取から肝臓で生成の中鎖脂肪酸、GPR84を介しマクロファージの過剰活性化を抑制

野生型マウスに高脂肪食を長期摂取させ肥満を誘導させると脂肪肝を生じることが知られている。マウス実験において、高脂肪食摂取だけでは、NASH様病態までの進展は見られないことがわかっているが、同研究において、野生型マウスに加えてGpr84遺伝子欠損マウス(Gpr84-/-)に対し、高脂肪食を長期摂取させると、Gpr84-/-マウスにおいてのみ、脂肪肝の症状に加え、過剰な炎症の結果、肝線維化を伴うNASH様の病態へと進展することがわかった。

各組織における、この高脂肪食による過炎症は、野生型マウスと比較し、Gpr84-/-マウスでは肝臓において著しかったことから、GPR84の発現と、GPR84活性化因子と予想できる内因性中鎖脂肪酸濃度について各組織で比較。すると、GPR84は骨髄由来マクロファージに高発現していること、また、内因性中鎖脂肪酸は、高脂肪食摂取により肝臓において急激に上昇することがわかった。

さらに、GPR84は中鎖脂肪酸の中でもC10:0のカプリン酸で最も活性化されること、一方でC8:0のカプリル酸ではほとんど反応しないことを見出し、肝臓で上昇したカプリン酸は十分にGPR84を活性化できる濃度に達することも明らかにした。そして、この分子作用機序は、肝細胞において、高脂肪食由来長鎖脂肪酸の代謝によって生成された中鎖脂肪酸が、長鎖飽和脂肪酸による肝マクロファージ活性化で惹起される脂肪毒性から、GPR84を介して抑制することで発揮されることを細胞レベルの実験で明らかにした。

GPR84活性化のカプリン酸・ラウリン酸補充で、モデルマウスのNASH進展を抑制

同時に、超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料で誘導したNASHモデルマウスへ各種中鎖脂肪酸の補充を行った。その結果、脂肪肝の程度は全ての群で同程度であったにも関わらず、GPR84を活性化することができるカプリン酸(C10:0)やラウリン酸(C12:0)の補充は、NASHの進展を抑制した。一方で、GPR84を活性化しないカプリル酸(C8:0)の補充は、NASHへの進展を妨げることはできなかった。

また、このカプリン酸によるNASH進展抑制効果は、Gpr84-/-マウスでは消失した。同様に、このNASHモデルやCCl4誘発性肝障害モデルマウスにおいて、カプリン酸MCTオイルの補充、あるいはGPR84作動剤を投与した結果、脂肪蓄積によって引き起こされる肝臓での炎症や肝線維化がGPR84依存的に抑制され、NASHの進行が効果的に防がれた。

GPR84活性化、NASH・肝細胞がん進行改善の予防・治療法につながる可能性

今回の研究により、油脂の過剰摂取の結果、余剰産生された長鎖飽和脂肪酸により引き起こされる炎症反応の暴走に対して、この時、同時に産生された中鎖脂肪酸がGPR84を介してブレーキをかける、すなわち、GPR84は高脂肪食による肥満から誘発される肝疾患に対し、肝臓を守る働きを持つことを明らかにした。また、同時に、マウス実験により、食事からのMCTオイルとして中鎖脂肪酸の補充や、GPR84作動剤の投与が、NASHへの進展を妨げたことから、外的因子によるGPR84活性化が、ヒトでのNASHおよび肝細胞がん(HCC)の進行を改善するための有効な予防・治療法につながる可能性も大いに期待される。

また、MCTオイルの中でもカプリル酸(C8:0)はNASH改善には全く効果を示さなかったことから、同じMCTオイルであっても、その炭素鎖長の違いもまた、機能性に重要であることが示された。このように、MCTオイル摂取による肥満・糖尿病とその関連疾患の予防、GPR84を標的とした治療薬の開発に向けて今後、本成果のさらなる応用が期待される、と研究グループは述べている。

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