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BRCA1 がん抑制遺伝子変異、白石綿曝露による悪性中皮腫の発生を促進-名大ほか

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2023年01月20日 AM10:08

BRCA1がん抑制遺伝子の生殖細胞変異、中皮腫との関連は解明されていない

名古屋大学は1月19日、ヒトの遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(:hereditary breast and ovarian cancer syndrome)の原因がん抑制遺伝子BRCA1のハプロ不全はBrca1L63X/+ラットモデルにおいてクリソタイル(白石綿)による腹膜悪性中皮腫の発生を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生体反応病理学の豊國伸哉教授、羅亜光大学院生、量子科学技術研究開発機構の今岡達彦博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Science」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

職業性あるいは環境からのアスベスト曝露により発生する悪性中皮腫は、社会にとって大きな負担であり、前世紀から広く問題視されている。アスベストによる中皮腫の発生には、局所の鉄過剰、活性酸素種の発生、それに伴うDNA二本鎖切断などが重要である。BRCA1がん抑制遺伝子は相同組み換え修復の重要な因子であり、その生殖細胞変異は乳がんおよび卵巣がんのリスクとして確立されているが、中皮腫との関連はまだ解明されていなかった。今回研究グループは、BRCA1生殖細胞変異と中皮腫の発生リスクの関係を評価した。

白石綿を投与したBRCA1L63X/+雄ラット、腹膜悪性中皮腫を早期に発症

クリソタイルを腹腔内投与したBrca1L63X/+変異の雄ラットでは、野生型と比較して早期に腹膜悪性中皮腫が発生した。また、L63X/+変異群で発生した中皮腫は、悪性度の高い肉腫型の割合が高く、細胞増殖能を反映するKi-67陽性率も高いことがわかった。中皮腫細胞の悪性度を反映する核グレードを分析すると、高い核グレードは生存率と負の相関をとり、クリソタイルを注射したBrca1L63X/+雄ラットで野生型より有意な高値を示した。

アレイCGH解析により、Cdkn2a/2b遺伝子の欠損はBrca1L63X/+変異群に発生した中皮腫で頻度が高いことが確認された。Cdkn2aのFISH分析により、Brca1L63X/+変異群の中皮腫[9/12(75%)]において野生型の中皮腫[5/13(38.5%)]よりも高頻度のCdkn2a欠失を認めた。

変異体群の中皮腫では鉄代謝に関する遺伝子のコピー数や発現に相違、フェロトーシス抵抗性を形成

Brca1L63X/+変異体群と野生型群の中皮腫においては、鉄代謝に関する遺伝子のコピー数や発現に相違を認めた。特に、クリソタイルで誘発されたBrca1L63X/+変異の中皮腫(3/6)は、野生型(1/6)に比してTfr2遺伝子の増幅を認めた。野生型と比べBrca1L63X/+変異の中皮腫はTfr1の発現が有意に上昇し、細胞内二価鉄も有意な増加を認めた。一方、IRP1の発現は低下しており、細胞内鉄監視機構であるIRE/IRPシステムが不活性化されていることがわかった。フェリチン発現レベルの低下を伴う不溶性三価鉄の減少は、Brca1L63X/+変異群中皮腫の貯蔵用鉄量の減少を意味した。

最後に、中皮腫におけるフェロトーシス経路の変化を検討したところ、がん抑制遺伝子であるBAP1の発現低下に加え、xCTやGPX4の発現上昇を確認した。同時に、・マーカー(HNEJ-1やPTGS2)の発現は減少し、Brca1L63X/+変異群の白石綿曝露後の中皮細胞においてフェロトーシス抵抗性が形成されやすいことがわかった。

男性保因者では、白石綿曝露が重要な発がんリスクである可能性を示唆

今回の研究成果により、(白石綿)誘発性中皮腫発がん機構の一端が解明された。また、クリソタイル曝露後早期の中皮細胞において、BRCA1ハプロ不全は、複数の機構を介して中皮腫の発生を促進することが明らかとなった。「BRCA1L63X/+生殖細胞変異の男性保因者においては、クリソタイル曝露が重要かつ回避可能な発がんリスクである可能性がある。今後はヒトにおける検証が必要である」と、研究グループは述べている。

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