おたふくかぜワクチンの予防効果、成人期には低下?
米国では、小児に対するムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)ワクチンの定期接種が行われているにもかかわらず、依然としておたふくかぜのアウトブレイクが報告されている。この原因を、ワクチン接種により獲得した免疫の減衰に求める説を裏付ける研究結果が報告された。米ジョージア大学Odum School of EcologyのDeven V. Gokhale氏らによる研究で、詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に1月9日掲載された。
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おたふくかぜは、片側または両側の頬(耳の下)や顎の下の腫れ、発熱などを主症状とする全身性のウイルス感染症だ。通常は、比較的軽い症状が1〜2週間続いた後に軽快するが、脳の炎症や難聴などの深刻な合併症を引き起こして重症化することもある。そのため、米国では、小児に対する麻疹(はしか)・おたふくかぜ・風疹の混合ワクチン(MMRワクチン)の定期接種が奨励されている。
しかし、米疾病対策センター(CDC)によると、米国ではこの20年の間におたふくかぜの発症例が再び確認されるようになり、2006年以降は症例数が毎年増加しているという。感染例は小児期にMMRワクチンを接種した大学生に集中している。
同様の傾向が、おたふくかぜワクチンの接種率が高い他国でも認められることから、現在、その原因について2つの仮説が唱えられている。一つは、ワクチン接種により獲得した免疫が数年間で減衰するという説で、主に米国の研究者が支持している。もう一つは、ワクチンにより誘導された免疫反応を回避する新たなムンプスウイルスが出現したという説で、主にヨーロッパの研究者が支持している。
Gokhale氏らの研究では、前者の仮説、つまり免疫の減衰を支持する結果が得られた。研究では、人口統計学的属性とMMRワクチン接種に関するデータを基に、感染症流行の数理モデルであるSEIRモデルを作成。このモデルにより、CDCが集計している1977年から2018年のおたふくかぜ症例のデータを用いて、上記の2つの仮説を検証した。その結果、近年のおたふくかぜの復活は、免疫減衰説により概ね説明され、32.8%の人が18歳までにワクチンにより誘導された免疫を失うと推定された。
こうした結果が得られたものの、この研究には関与していない専門家たちは、MMRワクチンによる強力な保護効果を疑う理由はないことを強調する。その根拠の一つとして挙げられるのが、MMRワクチンの定期接種開始前と比べた開始後の感染者数の変化だ。CDCによると、2006年以降の年間の感染者数は数百人から6,000人程度であるが、定期接種開始前では年間10万人超と比較にならないほど多かった。この事実を踏まえて米国立感染症財団のWilliam Schaffner氏は、「2006年以降のおたふくかぜのアウトブレイクは、依然として滅多に起こらない珍しいことだと言える」と強調する。同氏はまた、「免疫減衰とは、免疫力の一部をなくすことを意味するのであり、免疫力が完全に失われるわけではない。奨励通りにMMRワクチンを2回接種した人では、おたふくかぜの重症化に対する保護効果が保たれているだろう」との見方を示す。
米国感染症協会のスポークスマンであるAaron Glatt氏も、「MMRワクチンは非常に効果が高い。「実際に米国では、2000年に麻疹撲滅宣言が出されている」とSchaffner氏に同意を示す。その上で同氏は、「それゆえ、親にとって大事なのは、子どもに確実に2回のMMRワクチンを接種させることだ」と述べている。
CDCによると、小児期のMMRワクチンの2回接種は、未接種に比べて麻疹ウイルスと風疹ウイルスへの感染リスクを97%低減する。これに対して、ムンプスウイルスへの感染リスクの低減効果は88%である。また、Schaffner氏によると、MMRワクチン接種により得たムンプスウイルスに対する免疫力は、徐々に低下していくことも知られている。
では、成人期にMMRワクチンの追加接種を受けるべきなのだろうか。この点については、Schaffner氏もGlatt氏も否定的な見解を示す。Schaffner氏は、「CDCはすでにMMRワクチンの追加接種に関して検討を行い、結論も出している。その内容は、例えば大学のキャンパスでアウトブレイクが生じた際にその地域の保健所が住民に追加接種を提供するなど、状況に応じて戦略的に追加接種を実施すべきだというものだ」と説明している。
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・Disentangling the causes of mumps reemergence in the United States
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