予後不良とされるIDH野生型星細胞腫、組織学的特徴が低悪性度である場合の予後は不明
名古屋大学は1月17日、まれな腫瘍である画像上限局型の病巣を形成するIDH野生型組織学的びまん性星細胞種の臨床的および分子生物学的特徴について報告したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科脳神経外科学の本村和也准教授、木部祐士大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
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WHO(世界保健機関)脳腫瘍分類が2021年に改訂され、膠芽腫の分子生物学的特徴を有するIDH野生型星細胞腫は、組織学的に低悪性度腫瘍の所見でも膠芽腫(Glioblastoma, IDH wild-type)と診断することとなった。しかしながら、膠芽腫と同様の不良な経過を呈するのはIDH野生型の退形成性星細胞腫が多く、より低悪性度の組織学的特徴をもつIDH野生型びまん性星細胞腫についても膠芽腫と同様の予後かどうかは意見が分かれている。
限局型の病巣を形成した5例のIDH野生型びまん性星細胞腫の詳細を検討
IDH野生型びまん性星細胞腫は脳の広範囲に浸潤するタイプが多いとされているが、今回5例の限局型の病巣を形成したIDH野生型びまん性星細胞腫を対象に研究を行った。限局型の病変は特に低悪性度の神経膠腫に多く、全摘出によって長期の予後が得られる可能性が期待できる。これら5例の臨床経過、画像所見、病理組織学的所見、分子生物学的特徴を詳細に検討し報告した。
症例は全て女性で、平均発症年齢は55.4歳、発生部位は前頭葉2例、島回3例だった。いずれの症例も造影効果に乏しい単発病変で、周囲の脳組織との境界が明瞭な限局型の病巣を形成していた。全例手術を施行し3例で肉眼的全摘出、2例で部分摘出が得られた。病理組織学的には異型に乏しいグリア細胞が増生し、膠芽腫の特徴である壊死や微小血管増殖、核分裂像は認められず、全例びまん性星細胞腫(Grade II)と診断された。後療法は行わず経過観察をしたところわずか平均12.4か月(5.8-28.7か月)で、摘出腔内に限局した造影病変の再発を認めた。再発時の病理組織学的診断は4例が膠芽腫(grade IV)で1例が膠肉腫(gliosarcoma,grade IV)だった。
低悪性度神経膠腫と酷似していても非常に予後不良、分子生物学的解析での診断が重要
全例で再摘出術後にテモゾロミドと放射線を併用した補助療法を施行した。初回手術検体の遺伝子解析を行い、全例でIDH1,2が野生型であることが確認された。4例で膠芽腫に特徴的なTERTプロモーターの変異を認めた。1例でCDKN2A homozygous deletion を認め、この症例は全摘出後にも関わらず再発までの期間が5.8か月と最も短期間だった。これらのことから、限局した病変で病理組織学的特徴は低悪性度神経膠腫と酷似していても、IDH野生型びまん性星細胞種は非常に予後不良であり、分子生物学的解析による診断が重要であると考えられる。
今回、IDH野生型びまん性星細胞腫では、限局型の病巣を全摘出しても、不良な経過をたどることを報告した。「これまでIDH野生型びまん性星細胞腫は、IDH変異型びまん性星細胞腫と同様に、摘出後は経過観察を行う方針が一般的だったが、こういった腫瘍に術後早期からの放射線化学療法を追加することによって予後が改善するかどうかの検討が待たれる」と、研究グループは述べている。
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