産後の自殺企図に影響し得るリスク因子を統計学的に評価した研究は不十分だった
東北大学は1月16日、産前のアルコールやタバコの使用障害、統合失調症、人格障害、不安障害などが、産前のうつ病の既往にも増して産後に自殺企図を引き起こすリスクを高める可能性があることがわかったと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の産科学・胎児病態学分野(周産期医学分野)の齋藤昌利教授、婦人科学分野の八重樫伸生教授、精神神経学分野の富田博秋教授、医療管理学分野の藤森研司教授、東京医科歯科大学医療政策情報学分野の伏見清秀教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「JAMA Network Open」電子版に掲載されている。
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医療の発展とともに周産期の致死的大量出血に伴う母体死亡は減少し、相対的に自殺による母体死亡の比率が上がってきている。現在、自殺は、先進国における母体死亡の20%近くを占めていると推定されている。しかし、これまで産後の自殺企図に影響し得るリスク因子を統計学的に評価した研究は、十分に行われていなかった。
そこで研究グループは今回、全国のDPCデータを用いて、産後1年以内の自殺企図に影響し得る産前のリスク因子を網羅的に調査した。
産後1年以内の女性延べ80万人のDPCデータで、自殺企図のリスク因子や既往症を検証
2016年4月~2021年3月までの5年間に国内のDPC対象病院に入院歴のある、延べ約3,000万人の中から、分娩を扱っている712か所の病院のいずれかに出産のために入院した延べ約80万人の女性を抽出し、解析対象とした。
候補となるリスク因子としては、出産時の年齢、BMI、喫煙量、内科的な既往症(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)、精神科的な既往症(うつ病、統合失調症、人格障害、不安障害、アルコール使用障害、適応障害など)、向精神薬の服用歴、産前の自殺企図の既往などを網羅的に検証した。
これらの精神科疾患は一部の患者で何種類か合併しやすい傾向があったため、それぞれの説明変数で単変量解析を行うだけでなく、適切な変数選択を行った上でロジスティック回帰による多変量解析も行い、それらの説明変数が独立したリスク因子とみなせるか否か検討した。また、産前に自殺企図のある妊婦は産後も自殺しやすい傾向があったため、産前に自殺企図のある妊婦を母集団から除いた感度解析も行い、得られたリスク因子について再現性を評価した。
産後自殺企図のリスク因子は「精神疾患の産前既往」、若年・喫煙歴で頻度増
その結果、BMIや解析対象とした内科的疾患の既往は産後の自殺企図の有意なリスク因子ではなかった。一方、うつ病、統合失調症、人格障害、不安障害、アルコール使用障害などの精神疾患の産前既往は、産後の自殺企図の有意なリスク因子だった。多変量解析で算出された産後自殺企図に対するオッズ比は、うつ病のオッズ比と比較して、アルコール使用障害、Brinkman指数600以上の多量喫煙歴、統合失調症、不安障害、人格障害などでより高いオッズ比が得られた。また、産後の自殺企図は、喫煙歴があると頻度が増し、やや若い女性で多い傾向もみられた。
産前リスクを有する妊婦への適切な評価・介入法の確立が重要
今回の研究により、産後1年以内に発生する母親の自殺企図のリスク因子として、産前のうつ病既往にも増して、アルコールやタバコの使用障害、統合失調症、不安障害、人格障害などの精神疾患の産前既往が重要であることが示唆された。
「今後、産後の自殺を予防するために、これらの産前リスクを有する妊婦への適切な評価法や介入法の確立が望ましいと考えられる」と、研究グループは述べている。
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