体重の変化が心不全の入院中の死亡率に及ぼす影響は?
横浜市立大学は1月12日、日本の全国的な入院患者のデータベースであるDPC(Diagnosis Procedure Combination)の解析により、心不全患者の体重変化と入院中の死亡率の関係を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術院医学群循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一教授、小西正紹講師、東京大学大学院医学系研究科の小室一成教授、康永秀生教授、金子英弘特任講師らの研究グループによるもの。研究成果は、本研究の結果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia, and Muscle」に掲載されている。
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社会の高齢化とともに心不全患者は増加している。慢性疾患患者の多くが疾病に関連した体重減少に苦しんでおり、慢性心疾患の代表である心不全もその例外ではない。慢性疾患に関連した体重減少は、全身の炎症やホルモンの異常を伴い、がんなどの他の慢性疾患でも問題になる。
がん患者においては体重減少が死亡率と密接に関連していることが明らかになっている一方、心不全における体重減少の評価は困難だ。なぜなら、心不全は体内の水分量が劇的に変化する疾患であり、体重変化が水分量の変化を示すのか、筋肉や脂肪(栄養)の量の変化を示すのかの判断が難しいからだ。それでも長期的に見ると、慢性心不全患者の体重減少は死亡率の上昇と関連し、逆に急な体重増加は再入院率の上昇と関連することがわかっている。
しかし現在のところ、体重の変化が心不全の入院中の死亡率に及ぼす影響について、十分な数の患者を対象にした研究は行われていなかった。この影響がわかると、死亡率の高い患者を事前に予測することが可能になるだけでなく、今後体重を減らさないための治療(栄養療法など)、体重を減らす治療(利尿薬など)の有効性を明らかにする研究の発展につながると考えられる。
心不全で入院を繰り返した患者約5万人を解析
研究グループは、日本の全国的な入院患者のデータベースであるDPC(Diagnosis Procedure Combination)を使用し、2010年~2018年の間に心不全のために入院を繰り返した患者(年齢の中央値82歳、46%が男性)計4万8,234人を対象に解析を行った。体重変化は、初回入院時と2回目入院時の体重から求めた。体重変化の中央値は-3.1%、2回の入院の間隔の中央値は172日であり、全患者の67%で体重が減少していたことがわかった。
体重増加と死亡率の関係、入院の間隔が短い患者でより顕著
さまざまな患者背景を調整した解析の結果、5%を超える体重減少と体重増加はともに、高い院内死亡率と関連していた(調整オッズ比、それぞれ1.46、1.23)ことがわかった。また体重増加と死亡率の関係は、2回の入院の間隔が短い(90日未満、または180日未満)患者でより顕著なこともわかった。
心不全患者の水分、栄養管理の研究の進展に期待
今回の研究は、観察研究を用いて関連性を示したものであり、因果関係を示す研究結果ではない。しかし、研究を通じて前回入院時より体重が減っている患者は総じて死亡率が高いこと、短い期間に体重が増加した患者も死亡率が高いことが判明した。「長期的には体重を減らさないための治療(栄養療法など)、短期的には体重増加に注意する治療(利尿薬などで体重増加、水分増加を防ぐ治療)が有効である可能性が示唆され、今後の研究が期待される」と、研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース