眼底写真から個人情報をAIで推定可能だが、AIが未公開で他の研究に使えなかった
国立情報学研究所(NII)は1月10日、日本医療研究開発機構(AMED)の支援で構築された学会主導データベース「Japan Ocular Imaging Registry(JOIR)」で収集された画像データを用いて、眼底画像から個人の年齢を推定するAIを開発し、無償公開を開始したと発表した。この研究は、日本眼科学会(JOS)とNIIによるもの。
深層学習(Deep Learning:DL)は、機械学習におけるブレークスルーであり、特に画像認識の分野では、人工知能(AI)の代名詞となるほど盛んに利用されている。さらに、画像認識の精度は人間を上回るとの報告も増加している。
NIIは2017年に医療ビッグデータ研究センターを設置し、医療画像ビッグデータのデータベースを構築して、医療補助AIの研究開発を実施する統合クラウド環境(クラウド基盤)を整備運用している。一方、日本眼科学会は、眼底画像を含む眼科データを全国の眼科関連施設から収集し、医療補助AIの研究開発を支援・促進する目的で、一般社団法人Japan Ocular Imaging Registry(JOI Registry:JOIR)を2019年に設立した。このJOIRのデータベースに収集した眼科画像を匿名化してNIIのクラウド基盤へ送り、クラウド基盤上の計算資源を利用して医療支援AIを研究開発している。
加齢は、がんや生活習慣病、認知症などさまざまな疾患の発症に影響することが知られている。近年、医療画像を用いたAI開発が急速に進み、病気の有無を判定するだけではなく、画像が撮影された個人の状態を推定することができることが明らかになってきた。眼内の光を感じる部分である網膜を撮影した眼底写真からは、年齢や性別、喫煙状況、血糖の状態などをAIで推定可能なことが明らかになっており、そこから得られる情報は眼科領域の疾患だけでなく、さまざまな全身の疾患を対象とした医学研究に活用できる可能性がある。しかし、これまでに報告された研究では、開発されたAIが公開されていないことから、他の研究に用いることができなかった。
眼底画像からのAI推定年齢と実年齢との誤差は平均2.39歳
そこで日本眼科学会はNIIと共同で、眼底画像をもとに個人の年齢を推定するAIを開発し、同AIモデル(推定手法)を研究者が広く自由に利用できるよう、一般に無償公開することにした。
今回研究開発したモデルは、年齢と性別のラベルが付与された18〜84歳の健常者の眼底写真8,149枚を学習データとし、年齢を正解として深層学習を行った。その結果、検証データの眼底画像から推定した年齢と正解ラベルの生体年齢との誤差の平均は2.39歳だった。
作成した「眼底年齢推定モデル」が、実年齢とある程度の相関があると評価されたため、そのモデルを医学や情報学の研究者が広く利用できるよう、無償提供することにしたという。
「病気のなりやすさ」に関係する新たなバイオマーカーとなる可能性
眼底画像から得られる情報を用いて、心血管病や認知症などのリスクを推定できることが、AIを用いない従来の古典的な疫学研究で明らかになっている。
「眼底画像から推定された年齢にどのような医学的価値があるかについて現時点では不明だが、本成果を研究者が活用し疾患対照研究や疫学研究などを行うことで、病気のなりやすさに関係する新たなバイオマーカーになる可能性があると考えられる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立情報学研究所 ニュースリリース