なぜバセドウ病にヨウ素が有効?モデルマウスでメカニズム解明
順天堂大学は1月12日、バセドウ病へのヨウ素長期投与について、甲状腺内のホルモン生合成とその分泌に対して抑制的に作用して治療効果を発揮することを、バセドウ病モデルマウスを用いた研究により明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科代謝内分泌内科学の内田豊義准教授、綿田裕孝教授ら、長崎大学原爆後障害医療研究所放射線生命科学部門分子医学研究分野の永山雄二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Thyroid」に先行掲載されている。
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バセドウ病は、体の代謝をつかさどる甲状腺ホルモンが過剰分泌され、動悸、体重減少、指の震え、暑がり、汗かきなどの症状が出現する病気。下垂体から分泌され甲状腺ホルモンの分泌を増加させるホルモン受容体TSHに対する抗体(TSAb)が体内で作られ、TSH受容体を刺激し続け、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されることにより生じる。自然界に存在するミネラルの一つであるヨウ素は、バセドウ病患者において甲状腺ホルモン値の低下効果を有する。そのため、臨床症状の改善効果(抗甲状腺作用)をもたらす薬剤として19世紀中盤以降、約150年にわたり使用されてきた。
一方で、ヨウ素投与を継続すると中等度から重度のバセドウ病では効果に耐性が生じる「エスケープ現象」が存在することが明らかとなっている。また、1940年以降、バセドウ病に対する薬物療法として、強力な甲状腺ホルモン生合成阻害を主たる薬理作用とするチオナマイド系薬(メルカゾール、プロパジール)が登場。このことで、バセドウ病治療におけるヨウ素の使用は一旦、限定的なものとなった。しかし、最近ではヨウ素も見直され、ヨウ素をチオナマイド系薬と併用することがバセドウ病初期治療の標準的な治療法となりつつある。さらに、軽症のバセドウ病であれば、ヨウ素単独で十分な効果が得られることもわかった。
このようなバセドウ病に対するヨウ素の抗甲状腺作用がどのような機序によるものか、明らかになっていなかった。そこで、ヨウ素をより適切に使用するためには、その抗甲状腺作用の分子機序を解明することが重要であると考え、今回、バセドウ病モデルマウスを用いて研究を行った。
ヨウ素が甲状腺ホルモン生合成や血中への分泌を抑制
バセドウ病モデルマウスにヨウ素を12週間にわたり経口投与した結果、バセドウ病モデルマウスに認める甲状腺機能亢進症は正常化した。この甲状腺機能改善効果がどのような分子メカニズムに基づくか、甲状腺組織を用いたRNA sequencing解析により甲状腺内の遺伝子発現と質量分析を行い甲状腺内のホルモン含量を解析。その結果、バセドウ病モデルマウスでは、甲状腺内T3およびT4量の増加とホルモン生合成(NIS、TPO、Dio1)および輸送(OATP4a1)に関わる分子群の発現が有意に増加していた。
また、ヨウ素投与により甲状腺内T4量のさらなる増加とバセドウ病で増加していた上述の分子群の発現が有意に減少していた。そのため、ヨウ素投与による甲状腺内のT4量の増加は甲状腺ホルモンの細胞外への分泌低下を示唆していると考えられ、バセドウ病に対するヨウ素の抗甲状腺作用は、甲状腺ホルモン生合成およびその分泌を抑制することで発揮されると考えられた。
バセドウ病治療の最適化につながることが期待
今回の研究結果により、分子機序に立脚した治療選択が可能となり、バセドウ病に対する治療の最適化につながることが期待されるという。また、バセドウ病に対するヨウ素の抗甲状腺作用には、甲状腺内のヨウ素輸送やホルモン生合成、ホルモン輸送などさまざまな分子の遺伝子発現の変化を伴うことがわかったことから、研究グループは、今後の研究では、ヨウ素というミネラルがどのように遺伝子発現に影響して抗甲状腺作用をもたらすのかに対する答えを見つけていきたいとしている。研究の延長上には、ヨウ素治療の限界である「エスケープ現象」を解決する糸口を見出せると期待している、と研究グループは述べている。
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・順天堂大学 プレスリリース