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出来事や時間経過によらず特定の環境を表象する「環境細胞」をマウス海馬で発見-九大

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2023年01月16日 AM10:47

場所細胞だけでは特定の環境を安定的に識別し記憶する仕組みを十分に説明できなかった

九州大学は1月12日、マウスの海馬CA1領域の神経細胞の中に、出来事や時間経過に関わらず特定の環境を表象する「環境細胞」が存在することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究院の小林曉吾助教と松尾直毅教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

自身が現在いる空間環境(場所)を認識し、そこで生じた出来事と関連して記憶することは、動物が生存する上で不可欠な能力の一つ。哺乳類では特に海馬と呼ばれる脳の領域が、これらの空間情報や出来事などの記憶の形成と想起に中心的な役割を果たすことが知られており、海馬の働きの仕組みを解明するために世界中で長年にわたり、多くの研究が精力的に行われている。

海馬のCA1領域には「場所細胞」と呼ばれる神経細胞が存在することが、O’keefeらによって発見され、外界の認知地図が海馬で表象されると考えられている。しかし、強い感覚刺激や情動刺激を動物に与えたり内的状態が変化したりすることによって、場所細胞の活動は例え同一の環境であっても、再配置することが知られている。したがって、場所細胞の存在だけでは動物が特定の環境を安定的に識別して記憶する仕組みを十分に説明することができなかった。

同じ環境内でも嫌な体験をする前後で海馬CA1領域の神経細胞の活動状態が全体で大きく変化

研究グループは今回、マウスを2つの異なる環境の箱(環境Aと環境B)に繰り返し入れ、環境Aでは嫌な出来事を経験させた。マウスがこれらの課題を行っている最中の海馬CA1領域の多数の神経細胞の活動動態を長期的に記録するために、重さ約2gの超小型の内視型蛍光顕微鏡を利用したカルシウムイメージングを行った。

得られた約1,500個の神経細胞のイメージングデータを詳細に解析した結果、同じ環境内においても、嫌な体験をする前後で海馬CA1領域の神経細胞の活動状態が全体として大きく変化することを明らかにした。

嫌な体験の有無や時間経過に関わらず、特定の環境で持続的に活動する「環境細胞」を発見

しかし、嫌な体験の有無や時間経過に関わらず、特定の環境において持続的に活動する特定の神経細胞が数%程度存在することを見出し、これらを「環境細胞」と名付けた。

さらに、嫌な出来事が生じる「前」の環境Aと環境Bにおける「環境細胞」の神経活動データから、機械学習アルゴリズムにより作成した脳活動解読モデルを用いて、マウスが環境Aと環境Bのどちらの箱にいるのかを、嫌な出来事が生じた「後」の環境Aと環境Bでの神経活動データから解読して予測できるか調べた。

その結果、「環境細胞」の脳活動解読モデルは、嫌な出来事が生じた後の環境でも識別して予測できることが判明。一方、海馬CA1領域の神経細胞全体や、場所細胞、無作為に選択した神経細胞の活動から作成した脳活動解読モデルでは、いずれも十分に予測することができなかったという。これらの結果から、出来事や時間経過に関わらず特定の環境で安定的に活動し、環境そのものを表象する「環境細胞」が海馬CA1領域に存在することを明らかにした。

認知症などの予防・治療法の開発への貢献にも期待

今回の発見は、ヒトを含む動物が、どのようにして日々の生活の中で周囲の環境の違いや変化を認知し、それらの情報を正しく記憶することができるのかという脳の基本的な仕組みを理解するための重要な手がかりとなる。海馬には記憶痕跡細胞の存在も明らかにされており、場所細胞や環境細胞との相違点や類似点を解明することにより、記憶学習を含む認知機構の理解が深まると期待できる。

「将来的には、これらの仕組みを詳細に解明することが、認知症などの予防・治療法の開発にも役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

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