食行動時の無意識的な機構が、肥満抑制に重要であるという仮説の妥当性は示されていない
大阪公立大学は1月10日、食行動制御などを行う前頭葉の一部の領域である下前頭回において、意識的な食刺激と無意識的な食刺激に対する脳の活動が異なっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科運動生体医学の石田梨佳氏(同研究科前期博士課程修了)、石井聡講師、吉川貴仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」にオンライン掲載されている。
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肥満は生活習慣病を構成する主要な病態の一つであり、心筋梗塞、脳梗塞はもちろん発がんなどにも関わることが知られている。肥満の抑制を目指して、食事指導などにより食行動を是正しようとするアプローチが広く行われているが、必ずしも十分な効果を上げることができていない。実際、このような指導を受けた者のうち半数近くの者は5年以内に元の体重に戻っていることが報告されている。このような指導の効果が不十分である原因について、従来の食事指導がターゲットとしている意識的な脳内機構だけでなく、無意識的な機構が食行動制御に重要な働きを果たしているという仮説を立てることができる。しかし、これまでにこの仮説の妥当性を脳の活動レベルで直接的に示した研究はなかった。そこで研究グループは、この仮説を検証する一助として、食行動制御に関わる意識的な機構と無意識的な機構が異なっていることを脳の電気的な活動のレベルで示すことを計画した。
意識に上る条件、上らない条件で食品と非食品の画像を見る実験
健常成人男性31名を対象に、バックワードマスキングという手法を用いて画像を認識できるように提示する条件(意識に上る条件)と、認識できないように提示する条件(意識に上らない条件)の2つの条件において、食品と非食品(身の回りの物体など)の画像をそれぞれ見てもらった。その後、画像を見ている間の脳の電気的活動を脳磁図で測定し、画像を見ている間の脳の活動が、意識的な機構と無意識的な機構では異なるか否かを調べた。
前頭葉の下前頭回における意識的と無意識的な機構の脳活動の違いが食行動傾向と関連
意識に上らない条件で画像が見えてしまった人や意識に上る条件で見えない画像があった人を除外し、最終的には14名分のデータを解析した。その結果、前頭葉の一部の領域(下前頭回:ブロードマン脳領域45および47)で観察される高γ帯域(60-200Hz)では、意識的な機構と無意識的な機構の律動的脳活動に違いがあることが明らかになった。さらに質問紙で調査した各参加者の食行動における傾向(感情に応じて食べてしまう傾向及び、意図的に食事の摂取量を制限しようとする傾向)と脳活動の違いには関連があることが示された。
無意識的な機構の理解により効果的な食行動矯正手法の開発につながる
この結果は、食行動は意識的な機構だけでなく無意識的な機構を考慮に入れないと理解できないことを示している。「これまでにも前頭葉(下前頭回)が食欲の抑制などに関わっていることが報告されているが、今後の研究によって食行動の制御について無意識下でどのような処理が行われているのかをより詳しく知ることができれば、意識的な処理のメカニズムについての知見と合わせて、今よりも効果的な食行動矯正手法の開発につなげることができるかも知れない」と、研究グループは述べている。
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