加齢黄斑変性の発症に関与する肥満、痩せることで発症を抑える効果があるかは不明
京都大学は1月6日、肥満を改善させることで加齢黄斑変性(AMD)発症が抑えられるかを検討したところ、予想に反して、過去の肥満が自然免疫系に長期間記憶されており、晩年の神経炎症やAMDに悪影響を与えることを発見し、そのメカニズムを突き止めたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院眼科の畑匡侑特定講師(研究当時 モントリオール大学ポスドク)、モントリオール大学のPrzemyslaw Sapieha教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science」に掲載されている。
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AMDは、最も頻度の高い神経炎症性疾患の一つであり、世界の失明原因の上位を占めている。また、患者数は急増しており、2040年までに世界で2.88億人が罹患すると想定されている。AMDの発症メカニズムはいまだ不明な点が多いが、自然免疫を中心とした慢性炎症の関与が最も重要な要素の一つであることがわかっている。AMD発症の危険因子としては、免疫関連遺伝子の変異による遺伝的要因に加えて、喫煙や肥満などの炎症を惹起するような環境的要因の蓄積によって引き起こされると考えられている。中でも、肥満は喫煙に次ぐAMD発症の重要な環境因子であり、高度な肥満患者ではAMDを発症しやすいことが知られている。肥満が引き起こす慢性的な全身性炎症がAMD発症に関与していると考えられている一方で、一度太った状態を改善させることで、慢性炎症ひいてはAMD発症を抑える効果があるかは、よくわかっていなかった。
肥満既往マウスでは体重が正常化しても加齢黄斑変性は増悪のまま
今回研究グループは、高脂肪食により肥満となったマウスに対して、食餌を通常食へと切り替えることで体重を正常化させた肥満既往マウスを作成した。この肥満既往マウスを用いて、レーザーにより脈絡膜新生血管を誘導した滲出型加齢黄斑変性モデルと、青色LEDで網膜萎縮を起こした萎縮型加齢黄斑変性モデルを作成した。これらのマウスでは、体重が正常化すると、耐糖能異常など全身の代謝状態も改善し正常化したにも関わらず、加齢黄斑変性はやせた後も増悪したままであることがわかった。そこで、マウスの身体のどこに加齢黄斑変性を増悪させる「記憶」が保持されているかを検索すると、腹腔内脂肪組織に含まれる自然免疫細胞(腹腔内マクロファージ)に、その記憶が保持されていることがわかった。つまり、腹腔内マクロファージが、肥満からやせた後でも、炎症性サイトカインや血管新生因子を分泌しやすい状態で保持されていることがわかった。
脂質により炎症や血管新生に関わる遺伝子のクロマチン構造が再構成、自然免疫系に記憶
更に、どのように「記憶」が免疫細胞内に刻まれているかを調べたところ、高脂肪食に含まれている脂質がToll様受容体4(TLR4)を介して転写因子AP-1の発現を上昇させ、AP-1がDNAに結合することで、ヒストンアセチル化酵素P300を動員し、ヒストン蛋白がアセチル化することで、クロマチン構造が緩み、遺伝子発現が促進されやすくなることを発見した。つまり、脂質により、炎症や血管新生に関わる遺伝子のクロマチン構造が再構成され、過去の肥満としてそのまま自然免疫系に記憶されることにより、晩年の神経炎症や加齢黄斑変性に悪影響を与えることが明らかになった。
今回の研究は、網膜疾患や神経炎症性疾患の発症に、自然免疫系に刻まれた「過去の記憶」が影響を与えうることを明らかにした。「今後は、免疫記憶に介入することで、難治性疾患の新たな治療法の開発につなげていきたいと考えている」と、研究グループは述べている。
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