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恐怖による摂食抑制に「lPB-PSTN経路」が関与、マウスで確認-慈恵大ほか

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2023年01月10日 AM09:30

情動と摂食行動に関わる神経回路メカニズムは不明な点が多かった

東京慈恵会医科大学は1月5日、マウスの脳幹にある外側腕傍核()から視床下部の傍視床下核()への経路が、恐怖によって生じる摂食抑制に重要な役割を担うことを発見したと発表した。この研究は、同大総合医科学研究センター臨床医学研究所の永嶋宇ポストドクトラルフェローと渡部文子教授らと、大阪大学大学院薬学研究科の橋本均教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

摂食行動は動物の栄養状態に駆動される一方で、ストレスや恐怖などの内的環境や情動にも大きく左右されることが知られているが、その神経回路メカニズムには不明点が多い。

これまで研究グループは、脳幹の橋にある腕傍核が飢餓や痛みシグナルを中継し、腕傍核から扁桃体への人工的回路操作が人工的な恐怖記憶を作ることを明らかにしてきた。そこで今回の研究では、情動と摂食行動との相互作用のハブとして、腕傍核に着目した。

マウスの「lPB–PSTN経路」活性化、場所嫌悪学習と摂食抑制を誘導

大阪大学の橋本均教授や笠井淳司准教授らが開発した全脳高速イメージング技術(FAST)を用いて、マウスlPBの投射先を網羅的に解析したところ、PSTNへの強い投射が認められた。さらに、逆行性トレーサーを用いた組織観察からも、lPB–PSTN経路の存在が示唆された。実際に、lPB–PSTN経路が機能的にもシナプスを形成していることを、光遺伝学と電気生理学的手法を組み合わせて光誘発ポストシナプス電流(EPSC)解析により確認し、lPB–PSTN経路が単シナプス性グルタミン酸性シナプスであることを明らかにした。

そこで、lPB–PSTN経路の生理的役割を明らかにするため光遺伝学的介入を行ったところ、lPB–PSTN経路の活性化は、場所嫌悪学習および摂食抑制を誘導することが明らかとなった。さらに、嫌悪行動の指標と摂食行動の指標の相関解析を行った結果、嫌悪行動を強く示した個体ほど、摂食行動が抑制されるという相関関係が検出され、lPB–PSTN経路による摂食抑制は、嫌悪シグナルが担っていることが示唆された。

恐怖による摂食抑制に「lPB–PSTN経路」が必要であることを確認

これらの結果を踏まえ、ストレス環境下での摂食抑制行動試験を用いた光遺伝学的および薬理遺伝学的抑制操作の解析を行った。その結果、コントロール群では恐怖記憶の想起に伴って摂食行動が強く抑制された一方で、PSTN抑制群においては摂食行動の有意な亢進が見られた。さらに、lPB–PSTN経路特異的な抑制も摂食抑制作用を顕著に減弱させたことから、lPB–PSTN経路が恐怖による摂食抑制に必要であることが明らかになった。

PSTNにはタキキニン(Tac1)などの神経ペプチドを発現する細胞が存在することが知られている。同研究では新たに、ストレスや摂食行動との関係が知られている神経ペプチド(下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP))を発現する細胞がPSTNに豊富に存在し、さまざまな脳領域に投射しているという特徴を見出した。

PSTNに豊富に存在のPACAP陽性細胞がlPBの主要な投射ターゲット

さらに、PSTNのPACAP陽性細胞を薬理遺伝学的に抑制すると、lPB–PSTNの活性化によってみられた場所嫌悪学習が顕著に減弱した。これらの結果から、機能的にもPSTNのPACAP陽性細胞が、lPBの主要な投射ターゲットであることが明らかになった。

PACAPシグナル伝達が、場所嫌悪記憶に関与している可能性

PACAP分子の機能解析を行ったところ、PACAP受容体のアンタゴニスト(PA8)投与がlPB–PSTNの活性化による場所嫌悪記憶を顕著に減弱させたことから、PACAPシグナル伝達が場所嫌悪記憶に関与していることが示唆された。

摂食行動異常や情動制御障害のメカニズム解明や治療法開発への貢献に期待

今回の研究成果により、lPB–PSTN経路が嫌悪シグナルを介して、摂食抑制を担っていることが発見された。これまで情動と摂食行動は独立に研究される傾向があったが、同研究は両者の制御を担うシグナルの相互作用メカニズムの解明に貢献するものと言える。また、PSTNは他の脳領域に比べ、機能に関する報告が少ない脳領域だ。今回見出したPSTNにおけるPACAP陽性細胞の知見が、今後のブレイクスルーと研究の加速につながることが期待される。

さらに、今回着目したPBやPSTNといった脳領域やPACAP分子は、マウスのみならずヒトにも存在する。「多様な疾患で見られる摂食行動異常や情動制御障害などのメカニズムの解明や治療法の開発にもつながる基礎研究に貢献できる可能性が考えられる」と、研究グループは述べている。

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