有機ゲルマニウムが硫化物と反応することで鎮痛効果をもたらすかを検証
近畿大学は1月6日、健康食品として市販されている有機ゲルマニウムが、生体内で知覚神経を興奮させる作用のある硫化物を捕捉することで、鎮痛作用をもたらすことを明らかしたと発表した。この研究は、同大薬学部医療薬学科病態薬理学研究室の川畑篤史教授、関口富美子准教授、坪田真帆講師、同有機薬化学研究室の田邉元三教授、株式会社浅井ゲルマニウム研究所(北海道函館市)の島田康弘氏、中村宜司氏、山形大学大学院医学系研究科創薬科学講座の山口浩明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Redox Biology」にオンライン掲載されている。
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有機ゲルマニウムは、鎮痛、免疫賦活、抗炎症といった効果をもたらし、がんや慢性肝炎などいくつかの病気に対して治療効果があることが知られている。健康食品や化粧品として一般に発売されているが、どのように効果をもたらすかは未解明な部分が多く、メカニズムの解明が求められている。同大薬学部医療薬学科病態薬理学研究室では、先行研究で難治性疼痛の発症メカニズムを解明しており、そのなかで硫化物によるT型カルシウムチャネル(Cav3.2)の活性上昇が、発症に関与することを明らかにしている。その成果をふまえ、有機ゲルマニウムが硫化物と反応することで鎮痛効果をもたらすのではないかという仮説をたて、浅井ゲルマニウム研究所、山形大学医学部と共同研究を進めてきた。
有機ゲルマニウムの加水分解物が硫化物と反応して、硫黄を取り込んだ化合物を生成
研究グループは、ゲルマニウムが硫黄と高い親和性を有することに着目し、痛みの発現に関与する気体メディエーターのH2Sと反応することで作用する可能性について検討した。まず、有機ゲルマニウム化合物(poly-trans-[(2-carboxyethyl)germasesquioxane]、Ge-132;アサイゲルマニウム)の加水分解物である3-(trihydroxygermyl)propanoic acid(THGP)と、H2S供与体である硫化物NaSHを混和し、反応生成物の構造解析を行ったところ、THGPからOH基が2つ取れ、Geに硫黄が1つ結合した化合物が生成されることがわかった。
硫化物によるT型カルシウムチャネルの活性をTHGPが抑制
H2Sは哺乳類の生体内において、L-システインからシスタチオニン-γ-リアーゼ(CSE)などの酵素により産生されるが、炎症などが発生した病的状態では、CSEの発現が増加し、過剰に産生されたH2Sが、痛みを伝える知覚神経のT型カルシウムチャネルCav3.2の活性を促進し、神経の興奮性を高めて痛みを引き起こす。そこで、Cav3.2の遺伝子を導入してタンパク質を発現させた細胞を用いてTHGPの効果を調べたところ、硫化物のNa2SによってT型カルシウムチャネル依存性電流(T-current)が増大し、THGPはこれを顕著に抑制することがわかった。
THGPは、硫化物により発生した痛みや膀胱炎モデルマウスで痛みの抑制作用を示す
さらに、マウスにおいて、Na2Sを足底内に投与し発生させた痛みは、THGPの前投与により有意に抑制されることがわかった。また、CSEの発現誘導によってH2Sが過剰に産生され、知覚神経のCav3.2活性が上昇した状態にあるシクロホスファミド(CPA)誘起膀胱炎モデルマウスにおける膀胱痛様行動や、セルレイン誘起膵炎モデルマウスにおける腹部関連痛覚過敏に対しても、THGP投与は顕著な抑制効果を示した。
難治性疼痛の治療薬に応用できる可能性
以上の結果より、有機ゲルマニウムGe-132は、THGPに加水分解された後、硫化物を捕捉することでCav3.2の活性亢進が関与するさまざまな痛みを抑制することが明らかとなり、難治性疼痛の治療薬として極めて有用であることが示唆された。
「がんの痛みはモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬で抑制することができるが、モルヒネがあまり効かない神経障害性疼痛や特殊な内臓痛に対する治療薬の開発が喫緊の課題となっている。これまでに、研究グループでは、ある種の難治性疼痛の発症に生体内で産生される硫化物(硫化水素ガスなど)によって誘発される知覚神経の過剰興奮が関与することを明らかにしてきた。今回は、有機ゲルマニウムがこの硫化物を捕捉することで痛みを抑制できることを証明し、難治性疼痛の治療薬として応用できる可能性を示唆した」と、同大の川畑教授は述べている。
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