■薬学部開設後に大学院も
岩渕氏は、薬学部開設の背景について「もともと30年前から薬学部を設置する構想があり、突然思いついた話ではない。独自に薬学部を開設する計画や既存の薬科大学との提携を模索するなど紆余曲折を経て、このタイミングで薬学部の設置を目指すことになった」と話す。
教員の確保に向けては、当初計画していた専任教員50人を集めることはほぼ達成し、兼担・兼任教員は80人の配置を計画する。充実した臨床教育と臨床に根ざした研究者の育成が大きな狙いだ。
薬学部設置により、医学部や看護学部と臨床から基礎研究まで幅広く連携し、領域制の専任教員には附属6病院や、領域ごとに設けられた研究スペース、最先端の研究装置を共同利用できるオープンな研究環境で他学部と連携した共同研究を推進していく。岩渕氏は「大学院教育や卒後研修教育も計画しているので、教員や施設の充実を図っていきたい」と話す。
新設する薬学部では、臨床実践能力を持った薬剤師の育成を目指す。24年度の入学生からスタートする薬学教育モデル・コア・カリキュラムにも対応し、低学年次から多職種連携教育を展開していく計画。1年次から医学部や医療看護学部などと連携した合同講義を行い、5~6年次には六つの附属病院を活用し、先進医療や救急医療、周産期医療など高度医療教育を提供する。さらに、スポーツ健康科学部との連携を通じて、セルフケア・セルメディケーションの実践など健康増進で活躍できる薬剤師の育成も目指す。
24年度に入学する学生が5年生となる28年度には、臨床実習で質の高い教育を提供できるように、薬学部と同大医学部附属病院薬剤部の連携を進めていく方針だ。薬剤部改革を進めるため、東京女子医科大学病院で薬剤部長を務めた木村利美氏を順天堂医院薬剤部長として招聘した。豊富な臨床経験から実務家教員の確保にも取り組む。
同大の特徴として、医学部附属病院に在籍している薬剤師に研究志向が高い人材が多く、今春には全体の約1割が学位取得者となる見込み。薬学教育で実務家教員不足が課題として指摘される中、各附属病院の薬剤部職員から多くの実務家教員が誕生する予定だ。
一方、地域連携教育も推進する。元星薬科大学教授である亀井淳三特任教授が中心となり、千葉県薬剤師会と連携し、地域医療薬学の講義カリキュラムや実務実習カリキュラムの作成を進めている。千葉県薬の会員薬剤師に対しては、日の出キャンパスに近い浦安病院での研修など生涯教育の機会も提供していく。
薬剤師偏在をめぐる問題を受け、文部科学省が2023年4月以降の薬学部設置認可申請については原則として認めない方針を示した。国家試験の合格率が低い一部の新設大学薬学部には風当たりも強い。
それでも岩渕氏は「病院の中で先端的に活躍できる薬剤師が未だに少ない。順天堂大学は臨床実践能力の高い薬剤師を養成していくことで貢献したい」と話す。