医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 赤ちゃんが「自発運動」を通して時間的・空間的パターンを獲得している可能性-東大

赤ちゃんが「自発運動」を通して時間的・空間的パターンを獲得している可能性-東大

読了時間:約 3分6秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年12月28日 AM10:57

赤ちゃんの「」で身体に何が起き、どのような意味を持つのかは不明だった

東京大学は12月27日、一見無意味に見える赤ちゃんの「自発運動」の背景に複数の筋肉の感覚や運動のモジュールが生まれていることや、モジュール間の情報の流れが時々刻々と移り変わる「感覚運動ワンダリング」が存在することを発見したと発表した。この研究は、同大情報理工学系研究科知能機械情報学専攻の金沢星慶特任助教、國吉康夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

古くから発達初期の感覚運動の経験が、その後の発達に重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきた。生後数か月頃の赤ちゃんが行う、もぞもぞとした全身の自発的な運動はヒトが最も早く経験する動きで、多くの研究者がその運動パターンや協調性の発達に伴った変化を報告するとともに、背景にある神経成熟との関連を指摘してきた。また、周産期医療の観点でも、脳性麻痺などの予測に自発運動の観察が有用であることが示されている。

一方で、ヒトの赤ちゃんの自発運動における運動出力と感覚入力がどのような構造を持ち、そのようなダイナミクスを持っているかについては技術的な問題も多く、十分な知見が得られていなかった。

モーションキャプチャと筋骨格モデルで筋肉の活動と感覚を推定し、情報の流れを解析

研究グループは今回、ヒトの新生児12人(生後1週間未満)および乳児10人(生後3か月)の自発運動を対象に詳細なモーションキャプチャを行い、全身12関節(26自由度)の関節運動を計測。計測した関節運動データに筋骨格モデルを組み合わせることで、全身の骨格筋(144本)の筋活動および固有感覚を推定した。

続いて、筋活動や固有感覚間に生じている情報の流れについて、グレンジャー因果と呼ばれる手法を用いて定量的に計算した。算出した筋活動や固有感覚間の情報の流れは288×288(=8万2,944)という膨大な数になるため、無限関係モデルと呼ばれる手法を用いて、関係性の高い22個の感覚運動モジュールを抽出し、理解しやすくした。抽出された22個のモジュールは、ほとんどが筋活動または固有感覚のどちらかのみで構成されており、それぞれのモジュールは筋肉の配置に沿った共通した機能ごとに分かれていた。さらに、感覚運動モジュール間に生じている情報の流れの密度を算出することで、どのようなモジュールペア間で情報伝達が多いか少ないかを評価可能とした。

発達に伴う反射的要素の減少/随意的要素の増加が反映されている可能性

新生児グループと乳児グループでモジュールペア間の情報伝達密度を比較したところ、巨視的には身体構造に依存する形で類似していることが判明した(脚モジュールの方が腕モジュールより情報伝達密度が低いなど)。さらに、乳児グループでは感覚由来の情報伝達が少ないとともに、運動由来の情報伝達が多いことが明らかになった。前者は感覚入力が先行して運動出力や感覚入力が生じている場合、後者は運動出力が先行して感覚入力が生じている場合を示しており、発達に伴う反射的要素の減少と随意的要素の増加を反映している可能性があるという。

「感覚運動ワンダリング」に一定の連続パターンがあることを発見

続いて、赤ちゃんの自発運動の際に、どのような感覚運動に関するダイナミクスが生じているのかを検証するため、感覚運動モジュール間の情報伝達密度について、非負値因子分解と呼ばれる手法を用いて12個の感覚運動状態を抽出。その結果、赤ちゃんの感覚運動情報はこれらの状態をさまようような時間的な変動を持つことが明らかとなり、研究グループはこの現象を「感覚運動ワンダリング」と名付けた。感覚運動ワンダリングにおいて、各感覚運動状態間を遷移する確率は巨視的には新生児と乳児で類似していた一方で、そのランダム性は乳児で低くなっていることがわかった。また、感覚運動ワンダリングの中には一定の連続するパターンが見つかっており、新生児グループより乳児グループで3連パターン(例:状態2→状態1→状態2)の出現率が高いことも明らかになった。

以上のことから、感覚運動ワンダリングのように、一見して意味がないような自発運動を通して、感覚運動に関する時間的および空間的パターンを獲得していることが示唆された。

複雑な行動や認知機能に対して自発運動が持つ役割の解明へ

発達心理学、神経科学、ロボット工学などの学際的な観点から、ヒトの行動や認知機能の発達には、脳をはじめとする神経システムの成熟だけでなく、外界や自己の身体も含めた相互作用とその反復が重要と考えられている。今回の研究結果は、そのような再帰的な発達過程が発達のごく初期の自発的な動きから始まることを示していると考えられる。

「今後は、単純な運動や感覚だけでなく、複雑な行動や認知機能に対して赤ちゃんの自発運動が持つ役割の解明に取り組む予定だ」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大