背側縫線核がもたらす快情動と釣り合うだけの不快情動をもたらすものは?
京都大学は12月23日、脳内の正中縫線核に存在するセロトニン神経が、従来知られてきた抗うつ効果を担うセロトニン神経の機能とは反対に不快情動をもたらすセロトニン神経であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究科の金子周司教授、永安一樹助教、河合洋幸博士課程学生(研究当時、現:大阪公立大助教)、北海道大学大学院医学研究院の大村優講師、ユセフブシェキワ助教(研究当時、現:ニューヨーク市立大学 研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
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快感や不快感といった感情は、生物が生きていく上で必要不可欠なものだ。抗うつ薬の作用点であるセロトニン神経のうち、背側縫線核セロトニン神経は快情動をもたらすことが複数の研究グループから報告されてきた。一方、全てのセロトニン神経の働きを強める抗うつ薬は、それ単独では快情動も不快情動ももたらさないとされており、背側縫線核と釣り合うだけの不快情動をもたらすセロトニン神経が脳内に存在すると考えられていたが、その詳細は不明だった。
正中縫線核セロトニン神経、報酬で活動低下・罰刺激で上昇
研究グループは、セロトニン神経の活動を蛍光で測定できるマウスを用いて、報酬および罰刺激を与えた際の正中縫線核セロトニン神経の活動変化を調べた。その結果、報酬により活動が低下し、罰刺激によって活動が上昇することがわかった。そこで、光でセロトニン神経活動を制御できるマウスを用いて、観察した活動変化を模倣したところ、活動抑制により快情動が、活動亢進により不快情動がそれぞれ誘発されることがわかった。
脚間核に投射するセロトニン神経による5-HT2A受容体の刺激が不快情動の生成に重要
詳細な検討の結果、さまざまな脳部位に投射する正中縫線核セロトニン神経のうち、脚間核に投射するものが5-HT2A受容体を刺激することが不快情動の生成に重要であることが明らかになった。これらの結果は、抗うつ薬による治療効果や副作用がどのような機序であらわれるのかを考える上で有用な基礎的な知見となると考えられる。
逆の機能をもつセロトニン神経機能を選択的に抑制する治療法の開発に期待
従来の抗うつ薬は、全てのセロトニン神経の活動を上昇させることで薬効を発揮すると考えられてきたが、治療には長期間かかることや効果がない患者が一定数存在することが問題となっている。「研究で見出された、従来の想定とは逆の機能をもつセロトニン神経の機能を選択的に抑える薬を開発していくことで、このような問題を解決できる可能性が考えられる」 と、研究グループは述べている。
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