胃がんが高度な線維化を起こす原因としてPDGF-PDGFRシグナルに注目
熊本大学は12月22日、高度線維化を伴う難治がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を高める治療標的を解明したと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構(IRCMS)消化器がん生物学研究室 の石本崇胤特任准教授、秋山貴彦研究員、安田忠仁研究員、内原智幸研究員、同大大学院生命科学研究部 消化器外科学の馬場秀夫教授らの研究グループと、国立がん研究センター、慶應義塾大学、藤田医科大学、京都大学、シンガポール国立大学との多施設共同研究によるもの。研究成果は、「Cancer Research」オンライン版に掲載されている。
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消化器がんの中でも、スキルス胃がん・膵臓がんのように高度な線維化を示す腫瘍は予後が非常に悪いことが知られている。進行した消化器がんにおいては、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤などさまざまな薬剤が用いられているが、十分な病状の改善は得られていない。がん細胞の周りはがん微小環境と呼ばれるさまざまな細胞によって構成されている。その構成細胞の一つである「がん関連線維芽細胞(以下、CAFs)」は、がんの線維化形成に深く関わり、悪性化を強めることが知られている。
研究グループは今回、胃がんが高度な線維化を起こす原因としてPDGF-PDGFRシグナルに注目し、PDGFR阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤併用療法の効果を調べた。
PDGF-PDGFRシグナルが、胃がん患者の予後不良と関連
さまざまな組織におけるがんのゲノムやエピゲノム、トランスクリプトーム、変異情報などのデータを集約したデータベース「TCGA(The Cancer Genome Atlas)」と胃がん切除組織の解析において、PDGF-PDGFRシグナルが胃がん患者の予後不良と関係することが判明した。
PDGFR阻害剤が活性化CAFsのケモカイン分泌を抑制、免疫微小環境を改善
また、PDGFによって活性化したCAFsは、免疫チェックポイント阻害剤の効果を弱める免疫抑制性細胞を腫瘍内に集めるケモカインを分泌することを明らかにした。さらに細胞実験における検証で、この効果はソラフェニブやレゴラフェニブといったPDGFR阻害剤によって改善されることがわかった。
さらに、独自に作成した高度な線維化腫瘍を形成する胃がんモデルマウスでの検討の結果、PDGFR阻害剤によって、活性化したCAFsを正常化すること(ストローマル・リプログラミング)により、腫瘍内へのリンパ球浸潤を回復させ免疫微小環境を改善させることが明らかになった。
免疫チェックポイント阻害剤+PDGFR阻害剤併用療法という新たな治療法確立に期待
今回の研究により、PDGFR阻害剤によって線維化腫瘍における免疫微小環境を改善する(cold tumor→hot tumor)ことで、免疫細胞の再活性化および免疫チェックポイント阻害剤の効果を促進することが示された。
「本研究を基盤とした今後の基礎・臨床研究の展開により、高度線維化を伴う難治がんに対する免疫チェックポイント阻害剤とPDGFR阻害剤を併用する 新たな治療戦略の確立が期待される」と、研究グループは述べている。
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