これまでのうつ尺度は評価環境に影響されるという問題点
大阪大学は12月16日、子育て世代の女性の身体症状からうつ症状をスクリーニングする尺度開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科先進融合医学共同研究講座(共同研究講座:株式会社ツムラ)の竹内麻里子医員、萩原圭祐特任教授(常勤)、京都大学大学院教育学研究科明和政子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Psychiatry」オンライン版に掲載されている。
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これまで、産後うつは、産後数か月をピークに10~15%の母親にみられることが知られていた。昨今のコロナ禍でその割合は20~30%に増加し、重症化していると報告されている。ところが、産後の健診では母親自身の健康にスポットがあたる機会が少なく、また子育てにおける負の感情を吐き出しにくいという日本の育児環境や、最初に身体症状を主訴に非専門医を受診することが多いなどの理由から、産後うつのスクリーニングは困難だった。
世界的によく使用されているエジンバラ産後うつ病質問票でさえ、質問に答える際に環境設定が必要であり、これまでのうつ尺度は評価環境に影響されるという問題点があった。さらに、産後うつはこれまで産後1年以内のものと考えられてきたが、近年はその遷延化が指摘されつつある。そのため、出産を契機に心の健康を損なう可能性が大いにある。
漢方の「気血水」の概念に基づいた身体症状に関する17項目からなる「MDPS」を開発
今回研究グループは、漢方の「気血水」の概念に基づいた身体症状に関する17項目の質問を5つのカテゴリーに分類し、組み合わせることで、軽症以上のうつをスクリーニングできる尺度Multidimensional Physical Scale(MDPS)を開発した。
従来のうつ尺度BDI-ⅡとMDPSに高い相関
子育て世代(産後0~6年以内)の女性1,135人を対象に、MDPSと世界的に広く使われているうつ尺度(Beck Depression Inventory-Second Edition;BDI-Ⅱ)との検証を行ったところ、両者の高い相関性が明らかになった(β=0.47,p< 0.0001)。
「月経再開の有無」を加えた「MDPS-M」、軽症以上のうつを感度84.9%、特異度45.7%で検出
さらに、子育て世代の女性1,135人のうち、偏りなくランダムに抽出した785人を学習用データとして、産後うつのリスク因子を加えて多変量ロジスティック回帰分析を行い、MDPSに「月経再開の有無」を加えたMDPS for mothers(MDPS-M)を作成した。検討の結果、MDPS-Mは、子育て世代の女性における軽症以上のうつを、感度84.9%、特異度45.7%で検出できることを明らかにした。検証用データとして残りの350人においても同様の解析を行なったところ、感度84.4%とほぼ同様の結果が得られ、その妥当性が確認された。
非専門医でも扱いやすく、子育て世代のうつ症状スクリーニングへの応用に期待
研究成果により、身体症状を基にした産後・子育て世代の軽症うつの早期発見が可能になった。MDPSは気血水の概念に基づく質問であるため、回答結果により食事などの生活指導を始め、薬物治療まで具体的介入方法が想定される。産後の母親の身心を支えることで、子どもの成長や母親自身のその後の人生もより健康的なものになっていくことが期待される。
「本尺度の長所は、身体症状に関する質問であるため、抵抗なく答えられ、かつ評価環境に左右されないところにある。非専門医でも扱いやすく、子育て世代のうつのスクリーニングに役立つと考えられる。今後は、子育て世代の女性以外の勤労年代や男性にも使える尺度として改良していくことで、社会全体へのさらなる貢献を目指す」と、研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU