生後早期から発症する重症アレルギー性疾患には、「単一遺伝子疾患」が存在する可能性
国立成育医療研究センターは12月20日、生後早期から治療に効果が見られないなどの重症アトピー性皮膚炎を含む複数のアレルギー疾患、好酸球性消化管疾患、高IgE血症、好酸球増多症を伴う患者において、STAT6遺伝子変異を発見し、その遺伝子変異によりSTAT6が異常に活性化していることが疾患の原因であることを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同センター消化器科の新井勝大診療部長、竹内一朗医師、免疫アレルギー感染研究部・アレルギーセンターの森田英明室長、ゲノム医療研究部の要匡部長、柳久美子研究員、好酸球性消化管疾患研究室の野村伊知郎室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」にオンライン掲載されている。
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一般的にアレルギー性疾患は、環境要因を含むざまざまな外的な要因と、遺伝的素因が複雑に絡み合って発症する多因子疾患と考えられている。その病態は、外的要因により活性化された細胞から産生されるインターロイキン(IL)-4/13がSTAT6を活性化することが中心であると考えられている。一方で、近年の遺伝学および解析技術の発展にともない、生後早期から発症する疾患や重症の炎症を伴う疾患の中には、たった一つの遺伝子の異常で発症する「単一遺伝子疾患」が存在する可能性が示唆されるようになった。
多様な症状を有する重症アレルギー疾患患児を対象に全エクソーム解析
今回の研究は、生後早期から治療の効果が見られない重症アトピー性皮膚炎(真皮コラーゲン線維沈着の増加を伴う)を含む多様なアレルギー疾患と、胃・十二指腸のリンパ濾胞過形成を伴う好酸球性消化管疾患・高IgE血症・好酸球増多症を有する症例を対象として、遺伝子解析(全エクソーム解析)を行い、原因遺伝子変異の同定とその機能解析を目的として行われた。
STAT6遺伝子変異、IL-4刺激の非存在下でも活性化、マウスで皮膚炎を自然発症
患児とその両親のトリオ全エクソーム解析の結果、この症例はSTAT6遺伝子変異(p.Asp419Asn)を有することを明らかにした。同変異型STAT6に関して、患者細胞、患者組織、遺伝子導入したHEK293細胞、および遺伝子導入マウスを用いて、その機能を解析した。変異型STAT6を導入したHEK293細胞を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイによる解析では、野生型STAT6ではIL-4刺激の存在下のみで転写活性が誘導されるのに対し、変異型STAT6ではIL-4刺激の非存在下でも転写活性が有意に上昇することが示された。さらに患者由来の不死化細胞を用いた検討では、変異型STAT6はIL-4非存在下でも核内に存在すること、IL-4刺激により野生型よりも過剰にリン酸化することが明らかになった。
また、患者の胃粘膜生検組織を用いたマイクロアレイ解析では、STAT6が関与する線維化や胚中心形成に関連する遺伝子の発現が上昇していることが明らかとなった。さらに、同変異型STAT6を導入したマウスの一部が、アトピー性皮膚炎様の皮膚炎を自然発症すること、皮膚炎の発症の有無に関わらず高IgE血症を認めることも明らかになった。以上より、この症例で発見されたSTAT6遺伝子変異(p.Asp419Asn)が、病気の原因であることが証明された。
STAT6遺伝子を原因とする新しい単一遺伝子疾患を提唱
今回の研究によって、今までに報告されていないSTAT6遺伝子を原因とする新しい単一遺伝子疾患が提唱された。今後、さらに多くの患者がこの疾患と診断されることが見込まれ、情報を蓄積することで、治療方法の開発につながることが期待される。また、生後早期に重症なアレルギー症状を有する患者の中には、この症例のように単一遺伝子疾患が存在することが示唆される。「原因がわかることで、病態に応じた治療戦略・治療開発への道が開け、子どもたちの健全な発育・発達につながる可能性があるため、今後も網羅的な遺伝子解析が求められる」と、研究グループは述べている。
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