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レントゲン1枚から年齢推定のAI開発、併存疾患や心疾患による寿命と関連-理研ほか

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2022年12月19日 AM10:12

胸部X線の正面画像1枚から患者年齢推定のAIモデル開発

理化学研究所は12月15日、胸部X線()画像から患者の年齢を推定する人工知能()モデルを開発し、その臨床的有用性を明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センター循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チームの伊藤薫チームリーダー、家城博隆研修生(研究当時、現:理研生命医科学研究センター循環器ゲノミクス・インフォマティクス研究チーム訪問研究員、東京大学医学部附属病院循環器内科医師、榊原記念病院非常勤研究員)、東京大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の小室一成教授、榊原記念病院の佐地真育医長、長友祐司医長、井口信雄副院長・主任部長、吉川勉研究所・研修所所長、磯部光章院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Medicine」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

加齢やそれに伴う老化は、心臓病を含むさまざまな疾患の原因となる。この加齢・老化の程度を推定するため、これまでにさまざまな手法の開発が試みられてきた。血管の動脈硬化や呼吸機能検査の検査値から推定される「」や「肺年齢」は健康の指標として広く用いられている。

近年、深層学習(ディープニューラルネットワーク)の発展により、磁気共鳴画像法(MRI)などの医療画像から年齢推定を試みる研究が報告されている。深層学習を用いて心電図1枚から年齢を推定するAIモデルは、年齢を6.9歳の絶対誤差で推定可能であり、その推定した年齢が心疾患の併存率などに関連していることが報告されている。また、頭部MRI画像から年齢を推定するAIモデルは、推定した年齢が将来の認知症発症頻度に関連することが報告されている。このように、医療画像から推定した年齢が健康指標として有用である可能性があり、注目を集めている。

胸部X線(レントゲン)は最も多く行われる医療画像検査の一つで、心疾患・肺疾患などの診断や経過観察に広く用いられている。しかし、胸部X線画像から患者の年齢を正確に推定することができるか、医師による推定と比較して精度が高いのか、推定年齢と実年齢との差が与える心疾患への医学的な意義は十分にわかっていなかった。

今回、研究グループは、胸部X線画像の公共のデータベースである米国NIH Chest X-rayデータセットから10万枚以上のX線データを用いて、胸部X線の正面画像1枚のみから患者の年齢を推定するAIモデルを開発・検証。深層学習のモデルには、Squeeze-and-Excitation Network(SENet)という畳み込みニューラルネットワークモデルを用いた。

平均絶対誤差4.95歳、高精度に年齢推定が可能

日本放射線技術学会が所有するJSRTデータという日本人の胸部X線からなる独立したテストデータ(245枚の胸部X線画像)を用いて、AIモデルの精度を検証。その結果、平均絶対誤差4.95歳、推定年齢と実年齢の相関は0.916(ピアソンの相関係数)と高精度に年齢推定可能なことがわかった。

また、医師による年齢推定精度と比較するために、同じ245枚の胸部X線画像を用いて、循環器内科医師、呼吸器内科医師、放射線専門医の合計7人による年齢推定を実施。7人の医師による年齢推定精度は、平均絶対誤差10.9歳、推定年齢と実年齢の相関は0.698(ピアソンの相関係数)とAIモデルの精度に及ばなかったとしている。

X線年齢、胸部X線画像の異常所見や隠れた合併症の推測に役立つ可能性

続いて、このAIモデルにより推定した年齢、すなわち「X線年齢」が持つ臨床的意義を調べるため、米国NIHデータセットの胸部X線画像にこのAIモデルを当てはめて、患者の病歴や予後との関連を解析。その結果、胸部X線画像に胸水や線維化などの異常所見を持つ患者では、X線年齢が実年齢よりも高齢に推定されることがわかった。

また、榊原記念病院に心不全のため入院した1,562人のデータベースを用いて、入院時のX線年齢を算出し、X線年齢と患者の併存疾患との関連を検討。その結果、高血圧症や心房細動・心房粗動を持つ患者では、X線年齢が実年齢よりも1歳程度高齢に推定されることが明らかになった。これらの結果から、X線年齢が胸部X線画像の異常所見や患者の隠れた合併症を推測するのに役立つ可能性が示された。

X線年齢、心疾患による寿命にも関連が示唆

最後に、X線年齢と1,562人の心不全患者の予後との関連を検討。その結果、X線年齢が実年齢よりも高齢に推定された患者では、心不全による再入院および死亡率の頻度が有意に高いことが明らかになった。米国の集中治療に関するデータベースであるMIMIC-IVデータの中で心疾患のために集中治療室に入院した患者においても、X線年齢が高齢に推定された患者は死亡率が高いことが判明。X線年齢が併存疾患の指標だけでなく、寿命にも関連することを示唆する結果だとしている。

一般診療で見逃される異常も注意喚起できる可能性

今回の研究では、胸部X線画像1枚から高い精度で年齢を推定するAIの開発に成功した。このAIモデルは医師による年齢推定よりも高精度であり、さらにX線から推定されるX線年齢が併存疾患や心疾患による寿命と関連していることを世界で初めて明らかにした。これはこのAIモデルを用いることで、胸部X線画像1枚から患者の加齢・老化を推定でき、一般診療で見逃される異常にも注意喚起できる可能性があることを示唆する結果だ。

胸部X線という最も広く用いられている医療画像検査の新しい活用方法およびX線年齢という新たな健康指標の有用性を示すものとして、臨床での応用が期待される、と研究グループは述べている。

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