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遺伝性神経変性疾患、原因タンパク質が小胞体ストレスを誘導するメカニズム解明-京大

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2022年12月16日 AM10:35

異常なタンパク質の蓄積に対処する小胞体ストレス、神経変性疾患との関連が示唆されている

京都大学は12月13日、運動神経変性疾患の原因となるタンパク質が、小胞体ストレスと細胞死を誘導する分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科の森和俊教授、齊藤峻介教務補佐員らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

全タンパク質の約3分の1が合成される小胞体では、分子シャペロンや酵素を用いてタンパク質の厳密な品質管理が行われているが、時としてそのシステムにほころびが生じ、小胞体内に構造が異常なタンパク質が蓄積してしまうことがある。このような小胞体ストレス状態に陥ると、細胞は小胞体ストレス応答を活性化させ、小胞体内の環境改善を試みる。それでも対処が不十分で、小胞体ストレス状態が持続してしまう場合には、細胞の機能が障害され、細胞死が誘導される場合もある。

これまでの研究において、小胞体ストレスがさまざまな神経変性疾患に関与していることが示唆されてきたが、両者の因果関係については意見が分かれていた。多くの場合、構造異常タンパク質が細胞外や細胞質に蓄積するからである。そこで研究グループは、構造異常タンパク質が小胞体に蓄積することが知られている神経変性疾患において何が起こっているのかを明らかにすることができれば、小胞体ストレスを介して神経変性疾患が発症するメカニズムを理解するための糸口となるのではないかと考え、研究をスタートさせた。

、小胞体で無糖鎖変異Seipinが凝集体形成<Caイオン濃度低下<

今回の研究では、遺伝性の運動神経変性疾患であるSeipinopathyの原因として知られる、小胞体に存在する糖タンパク質Seipinの無糖鎖型変異体(non-glycosylated :ngSeipin)に着目した。トランスジェニックマウスを用いた解析から、ngSeipinが神経細胞で小胞体ストレスを生じさせることはすでに明らかにされていたが、その分子メカニズムは不明だった。

今回、ngSeipinを発現させた細胞の小胞体を詳しく解析したところ、本来細胞内で網目状に張り巡らされているはずの小胞体が著しく変形し、大きく膨らんだ状態になっていること、それと同時に小胞体内部に本来高濃度で存在するはずのカルシウムイオンの濃度が減少していることがわかった。より詳しく解析した結果、ngSeipinは小胞体で凝集体を形成し、それが原因で小胞体が変形してしまうこと、またこの塊の中にカルシウムイオンポンプであるSERCA2bが巻き込まれて不活性化され、その結果として小胞体内カルシウムイオン濃度が減少していることを突き止めた。小胞体内のシャペロンの機能にはカルシウムイオンが必要であり、ngSeipinの発現によって小胞体ストレス、ひいては細胞死が誘導される仕組みが解明されたという。さらに、細胞内に存在するSERCA2bの量を増やして、小胞体内のカルシウムイオンの濃度を上げることで、ngSeipinに起因する小胞体ストレスや細胞死を軽減できることを見出した。

発症メカニズムを理解するための鍵として期待

今回の研究結果は、ngSeipinに起因する小胞体内カルシウムイオン濃度の減少が、ngSeipin発現細胞における小胞体ストレスの発生原因であることを初めて示したものである。この分子メカニズムがSeipinpathyの発症メカニズムを理解するための鍵となることが期待される。「今後はマウスを用いて、ngSeipinに起因する小胞体内カルシウムイオン濃度の減少について引き続き調べる予定であり、これと並行して、ALSなどの他の運動神経変性疾患にも小胞体内カルシウムイオン濃度の減少が関わっているかどうかについても、iPS細胞を用いた解析に踏み出したいと考えている」と、研究グループは述べている。

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