統合失調症患者におけるクロザピンと虫垂炎発症の関係を後方視的に研究
秋田大学は12月13日、クロザピンを服用していた患者は服用していなかった患者に比べ、観察期間中の虫垂炎の発症率が有意に高いことを明らかにしたと発表した。この研究は、市立秋田総合病院の川北雄太医師、同大大学院医学系研究科精神科学講座の竹島正浩講師、三島和夫教授、伊藤結生助教、今西彩助教、藤原大医員、能代厚生医療センターの小松和音医師の共同研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Psychiatry」に掲載されている。
クロザピンは国内外のガイドラインにおいて治療抵抗性統合失調症の第一選択治療として推奨され、日本において唯一治療抵抗性統合失調症に対して適応を取得している抗精神病薬。その有効性は確立しているが、無顆粒球症、心筋炎、高血糖などの重篤な副作用が生じることがあり、定期的な検査が必要だ。最近、これらの副作用に加え、クロザピンが虫垂炎のリスクを上げるのではないかという研究が報告されたが、対照群のない観察研究であり、追試はされていなかった。
そこで研究グループは今回、2009年6月~2021年8月の間に同大医学部附属病院の精神科を受診した統合失調症の患者において、クロザピンを服用していた患者(クロザピン群)65人とそれ以外の抗精神病薬を服用していた患者(非クロザピン群)400人の間で、虫垂炎の発症率と累積発症率に差があるかを後方視的に比較した。
クロザピン群は非クロザピン群に比べ、観察期間中の虫垂炎の発症率が有意に「高」
その結果、クロザピン群は非クロザピン群に比べて、観察期間中の虫垂炎の発症率が有意に高いことが明らかになった(10万人年当たり863例vs124例)。特に、クロザピンの曝露期間に限定すると、クロザピン群の虫垂炎発症率は10万人年あたり2,086例と極めて高く、非クロザピン群の約20倍の発症率だった。
さらに多変量解析により、クロザピンへの曝露が虫垂炎の発症に寄与する独立した因子であることが示された。
クロザピン服用中の患者は既知の副作用に加え、虫垂炎にも注意して経過観察することが必要
今回の研究により、クロザピンが統合失調症の患者の虫垂炎発症リスクを高めることが示唆された。このことから、クロザピン服用中の患者は既知の副作用に加え、虫垂炎にも注意して経過観察する必要があると考えられる。また、将来的にクロザピンによる虫垂炎の発症機序が解明されるとともに、虫垂炎発症のハイリスク群の同定や、発症予防策が開発されることが望まれる。ただし、本研究は小規模な後方視的研究であるため、本研究の結果を確認するためには、さらなる研究が必要だ、と研究グループは述べている。
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・秋田大学 プレスリリース