DLBとPDの違いに関わる腸内細菌や代謝産物を調査
名古屋大学は12月13日、腸内細菌コリンセラ属やビフィズス菌が、レビー小体病の一つ「レビー小体型認知症(DLB)」の発症に関係する可能性があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科(研究科長・木村宏)・ オミックス医療科学の平山正昭准教授、神経遺伝情報学の大野欽司教授、同・西脇寛助教らの研究グループと、岡山能神経内科クリニックの柏原健一院長、岩手医科大学神経内科老年科学の前田哲也教授、福岡大学能神経内科学の坪井義夫教授らの共同研究によるもの。研究成果は、「npj Parkinson’s Disease」オンライン版に掲載されている。
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生活習慣病は予防が最重要であり、脳血管障害は、糖尿病・高血圧のコントロールや食事・運動など生活習慣の改善により、発症率を抑制することができる。がん疾患に関しても、適切な治療法が確立されつつある。しかし、神経変性疾患、特に認知に関する疾患は、異常タンパク質の蓄積などが原因とされ、加齢とともに増加し、根本的な治療法がない。特にDLBはアルツハイマー病についで多い認知症であり、パーキンソン病(PD)とほぼ同等の高齢者罹患率で、幻覚などの陽性症状が社会問題となっている。DLBは認知症の約20%を占め、アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症だ。DLBとPDは、神経細胞内のαシヌクレイン線維の異常凝集(レビー小体)を特徴とする。Braakは、異常なαシヌクレイン線維が迷走神経の孤束核から始まり、徐々に黒質へ上昇するという画期的な仮説を提唱した。PD患者は運動症状発現の20年、10年、5年前に便秘、RBD、うつ病を発症することから、消化管から異常なタンパク質が上行することでパーキンソン病が起きると報告されている。
この仮説から研究グループは、腸管神経叢の変化が異常蓄積したαシヌクレインがプリオンの性質を有し、迷走神経背側核から青斑核、黒質に進展しRBDやPDを発症する可能性を明らかにしてきた。しかし、DLBとPDでは認知症の発症のタイミングが異なる。PDでは運動症状が開始後、10年以上経ってから幻覚妄想などの精神症状を発症する。認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)の精神症状はDLBと区別できない。さらに、この2つの疾患は、剖検例では病理学的に本質的な違いはない。したがって、未同定の因子によってDLBとPDは区別されるはずだ。そこで研究グループは今回、認知発症に関する腸内細菌叢の関与を検討するため、DLBとPD違いに関わる細菌や代謝産物を調べた。
CollinsellaとRuminococcus torquesの増加はDLB特有の変化
研究では、PD患者224人、RBD患者26人、DLB患者28人、健常者147人から糞便サンプルを提供してもらい、その中に含まれる腸内細菌叢と糞便胆汁酸を解析した。DLBと健常者を比較したところ、3種類の腸内細菌がDLBで増加しており、7種類の腸内細菌がDLB患者で低下していた。DLBで低下していた腸内細菌の多くは短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌だった。SCFA産生菌の低下はPDでもみられる。DLBで増加していた腸内細菌のうち、CollinsellaとRuminococcus torquesの増加はPDでは見られず、DLB特有の変化だったという。
tmapでPDD+とHY3&4は近傍に位置
また、今回の研究で使用したデータを使い、臨床症状・疾患名・腸内細菌を同一平面上にマッピングする統合トポロジー解析「tmap」を行った。同解析により、対照群は短鎖脂肪酸(SCFA)を産生するFaecalibacteriumに密接に位置し、健常者ではSCFA産生菌が豊富であることが判明した。また、PDD+(DLBは認知症を伴ったパーキンソン病)とHY3&4(パーキンソン病重症度3と4、1が最も軽症で5が最も重症)の近くに位置した。同様に、主座標解析(PCoA)で疾患ごとに腸内細菌叢を2次元座標にプロットしたが、同様にPDD+とHY3&4は近傍に位置したという。
UDCA/7K-LCA比は対照群に比べ、DLBで有意に増加
さらに、DLBで特異的に変化した細菌を特定するため、DLBとHY3&4を区別するランダムフォレストモデルを作成。過学習がない条件でDLBとHY3&4を区別するモデルの受信者動作特性曲線(ROC)の曲線下面積(AUC)は0.756(Fig. 3a)だった。AUC 0.5が判別能ゼロの判別器で、AUC 1.0が理想的な判別器だ。また、モデル作成に用いる腸内細菌を徐々に減らしていったところ、Ruminococcus torques、Bifidobacterium、Collinsellaの3属によって最大のROCのモデルを作成できた(Fig. 3b)。事実、DLBとHY3&4で異なる腸内細菌を順に並べたところRuminococcus torques、Bifidobacterium、Collinsellaはそれぞれ1位、3位、7位だった。Ruminococcus torques, Bifidobacterium, Collinsellaの3属の相対量を、コントロール、HY3&4のPDD-(認知症を伴わないPD)、HY3&4のPDD+(認知症を伴うPD)、DLBで比較すると、(1)Ruminococcus torquesはコントロールに比べてDLBで増加し、(2)BifidobacteriumはPDD-に比べてDLBで減少し、(3)Collinsellaはコントロールに比べてDLBで増加した。Ruminococcus torques, Collinsella, Ruminococcus gnavusの3属は、KEGGとUniRef90によると7β-hydroxysteroid dehydrogenase(7BHD)を持つ。
7BHDは、7-ketolithocholic acid(7K-LCA)から二次胆汁酸ursodeoxycholic acid(UDCA)を作る律速酵素だ。そのため、糞便中のUDCAと7K-LCAを定量し、UDCA/7K-LCAの比率を算出し、7BHDの活性を推定した。UDCA/7K-LCA比は対照群に比べ、DLBで有意に増加した。
DLBとPDD+におけるビフィズス菌の減少は、認知機能低下と因果関係がある可能性
健常者に比べてDLBで減少した細菌は、全てSCFA産生菌だった。SCFA産生菌の減少は、PD、アルツハイマー病、およびALSで繰り返し報告されており、神経変性疾患における共通の特徴であると思われる。SCFAは腸管ムチン層を増加させ、ヒストン脱アセチル化酵素を抑制することにより、制御性T細胞(Treg)数を増やす。また、SCFAはTregを介することなく神経炎症を抑制する。DLBにおけるSCFA産生菌の低下が神経炎症を増悪させていると思われる。一方、Ruminococcus torquesとCollinsellaの増加とBifidobacteriumの低下がDLBをHY3&4から判別する重要な腸内細菌であることが明らかになった。
Ruminococcus torquesとCollinsellaは二次胆汁酸を作る主要な腸内細菌であり、便中の二次胆汁酸(UDCA)/一次胆汁酸(7K-LCA)比は、対照群に比べDLBで有意に増加した。UDCAは、抗酸化作用、抗アポトーシス作用を有する。UDCAの増加はDLBの発症において、PDの原因となる中脳黒質の炎症によるドーパミン作動性細胞死を軽減する可能性がある。つまり、LDBにおけるUDCAの増加はPDによる運動症状の発症を抑制する可能性がある。このことは、DLBの発症年齢がPDに比べて遅いことの説明にもなると思われる。また、ビフィズス菌の減少はアルツハイマー病においても観察され、PDにおいては症状を急速に悪化させる予測因子となることも判明した。DLBおよびPDD+におけるビフィズス菌の減少は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少を介して認知機能の低下と因果関係がある可能性がある。
今後は腸内細菌叢遺伝子解析で、腸内細菌の機能遺伝子の違いを検討することが必要
現在まで、パーキンソン病における腸内細菌叢の異常は病態を進展させる方向に働くことのみに注目されていたのに対し、「病態抑制をする細菌叢が存在する」ことが明らかにされた。DLBの発症病態と比較するとことで、なぜDLBが運動症状を先に起こさず、認知症状から発症するのかを解明する一助となったと思われる。しかし、腸内細菌の多くの機能がまだ明らかになっていないため、今回も二次胆汁酸代謝のみに焦点を絞ったとしている。今後は、ショットガンメタゲノム解析で網羅的な腸内細菌叢遺伝子解析を行い、腸内細菌の機能遺伝子にどのような違いがあるかを検討することが必要だ。
「異常タンパクの脳への伝播と脳内での拡散を抑制することで疾患修飾を行うことができる。このことは、現在までと全く異なった創薬への道を開く可能性がある」と、研究グループは述べている。
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