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薬剤耐性を伴う抗生剤の過剰使用の背景に「社会的ジレンマ」が存在-長崎大ほか

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2022年12月13日 AM11:07

「個人が望む治療」と「世界の耐性菌問題」のどちらをとるかという社会的ジレンマ

長崎大学は12月12日、日本や米国など8か国の計4万1,978人に対しオンライン調査を実施し、(抗生物質・)使用の背景に存在する社会的ジレンマにどれくらいの人々が陥っているのかを明らかにしたと発表した。この研究は、同大熱帯医学研究所国際保健学分野の伊東啓助教、同分野の山本太郎教授、吉村仁客員教授、静岡大学の一ノ瀬元喜准教授、守田智教授、大阪公立大学の和田崇之教授、九州大学の谷本潤教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

抗生剤は、多くの人々を救ってきた一方、その使用は、抗生剤が効かない薬剤耐性菌(以下:耐性菌)を生み出すという問題を生んでいる。耐性菌が蔓延すると、薬で治療できない感染で苦しむ人が増えるだけでなく、外科手術や臓器移植といった医療システムが機能しなくなる恐れがある。実際に2019年の時点で、世界中で127万人の人々が耐性菌によって直接死亡したと推定された。これはHIV/AIDSやマラリアの死亡者数よりも多い。耐性菌の関連死では推計495万人に上る。日本でも2017年の時点で約8,000人が耐性菌による菌血症で亡くなっており、これは交通事故死亡者数の倍にあたる。

このように、抗生剤を使うという行為には、「個人が望む治療」と「世界の耐性菌問題」のどちらをとるかという社会的ジレンマ(個人にとっての最適な行動が、社会全体としての最適な結果に帰着しない状況)がある。この問題には、個人と世界を両立する都合の良い回答は存在しない。そのため、患者自身が自分の意思で治療を選ぶことのできる(インフォームドコンセントの発達した)社会では、抗生剤の濫用に歯止めがかからない可能性がある。

各国の約15~30%の回答者が社会的ジレンマに陥っていると判明

研究グループは、日本・米国・英国・スウェーデン・台湾・オーストラリア・ブラジル・ロシア各国のどれくらいの割合の人々がこの社会的ジレンマに陥っているのかを実際に調べた。

調査結果から、各国の約15~30%の回答者が社会的ジレンマに陥っていること、抗生剤の使用と耐性菌の出現・拡散の背景にある社会的ジレンマが存在していることが初めてわかった。また、各国の約半数が「自分も他人も抗生剤の使用を控える必要はない」と回答していた。これは、「誰もが自分の健康を最優先にしていいし、それが大事だ」という回答を意味する。一方で、各国の約半数の人々は、そのような「個人の望む治療よりも、世界の耐性菌問題を優先するような社会」の到来を今のところ望んでいないこともわかった。

議論を発展させ、使用制限の法制化の検討などが必要になる可能性

無制限の抗生剤使用は、耐性菌を多く出現させることにつながるため、もし、耐性菌問題に真正面から立ち向かっていくのであれば、法によって医療側に抗生剤の使用制限をかける必要があると考えられる。「今後悪化が予測される耐性菌問題に立ち向かうためには、このような社会的状況を解消する議論を発展させていく必要があるかもしれない」と、研究グループは述べている。

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