■製薬業界に深刻な影響も
厚生労働省は9日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会で、薬価と市場取引価格の開きを示す平均乖離率が7.0%となった2022年の薬価調査結果に基づき、2023年4月の中間年改定で改定対象となる品目数の試算結果を公表した。2021年度中間年改定で改定対象となった平均乖離率0.625倍超だと、全体の約7割となる1万3400品目が対象となり、影響額は4900億円となる見通し。前回と同水準の改定が行われれば、製薬業界に深刻な影響をもたらすことが予想される。
厚労省が示した試算結果によると、改定対象品目が平均乖離率0.625倍超とした場合、新薬は1500品目(新薬全体の63%)、長期収載品が1560品目(長期収載品全体の89%)、後発品が8650品目(後発品全体の82%)、1967年以前に収載されたその他品目は1710品目(その他品目全体の36%)となった。
実勢価改定分の影響額は4900億円と試算し、新薬が1590億円、長期収載品1330億円、後発品1810億円、その他品目は140億円とした。
新薬創出等加算品目で平均乖離率0.625倍超のカテゴリーに含まれるのは240品目で、全体の約4割を占め、影響額は640億円に上ると見積もった。
一方で、業界側が提案している平均乖離率1倍超だと改定対象品目は1万0400品目(54%)で、影響額は3800億円と試算した。新薬創出等加算品目50品目(新薬創出等加算全体の8%)、新薬760品目(新薬全体の32%)、長期収載品1350品目(長期収載品全体の77%)、後発品7310品目(後発品全体の70%)とした。
この日の部会では、安定供給上の問題を踏まえ、前回中間年改定で0.8%の薬価引き下げ削減幅の緩和措置として実施した「新型コロナウイルス感染症特例」のように一律に対応すべきか、影響が大きい品目に特化した対応を行うべきかを議論した。
診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「安定供給上の問題は企業の対応に端を発するものであり、薬価で解決するとは思えない。産業構造やビジネスモデルに関わる課題への対応がどのように行われるかを見定めた上で議論を行う必要がある」と述べた。
その上で、「前回の中間年改定では医療機関、メーカー、卸の全ての関係者が新型コロナウイルス感染症の影響を受け、薬価の削減幅を0.8%一律に緩和した。安定供給に支障が生じている品目がある程度カテゴリー別に整理されている印象を受けており、一律に緩和することの必要性は認められない」と述べた。
有澤賢二委員(日本薬剤師会理事)は、「医薬品の安定供給については状況が改善するどころか、日増しに悪化している。今回は緊急的な措置として、不採算品となっているものは従来のルールにとらわれすぎず、柔軟な対応を行うなどの配慮が必要」と訴えた。
薬価引き下げの緩和措置については「安定供給や新薬のイノベーション推進のためには、薬価の引き下げを広く一律に緩和するのではなく、影響が大きいカテゴリーに特化した対応が必要ではないか」と述べた。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「特定の分野を改定対象から外すことやコロナ特例のように薬価引き下げを一律に緩和するのは不適切」と強調。「改定の対象範囲を0.625倍をベースとして特別な配慮を行うのであれば、0.5倍まで広げれば影響額が100億円増加するので、この財源の範囲のうち不採算で安定供給できないものを個別に精査し、救済するのは検討の余地がある」との考えを示した。