緑内障モデル動物を用い、遺伝子治療で抑制できるか検討
東京都医学総合研究所は12月8日、緑内障モデルにおいて視覚の保護と視神経軸索の再生を可能とする細胞膜結合型Trk受容体の作製に成功したと発表した。この研究は、同研究所 視覚病態プロジェクトの原田高幸プロジェクトリーダー、西島義道研究員(東京慈恵会医科大学眼科)、本田紗里研究員(順天堂大学眼科)、北村裕太研究員(千葉大学眼科)らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Molecular Therapy」オンライン版に掲載されている。
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緑内障は日本では第1位、世界でも第2位の失明原因。現在のところ緑内障の治療は、眼圧を下げる目薬や手術によって行われているが、それでも進行してしまうことも多く、新たな治療法の開発が求められている。そこで視覚病態プロジェクトでは緑内障モデル動物を用いて、遺伝子治療によって緑内障を抑制できないか検討した。
BDNFが無くても活性のある改良型TrkBを開発、低分子量でAAV組み込みも可能に
研究グループでは以前から、神経保護作用がある「神経栄養因子」に注目した研究を行ってきた。例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)の眼球内投与は網膜の神経保護に有用だが、有効期間が短いのが難点だ。それを解決するには、BDNFの受容体「TrkB」を用いた遺伝子治療が考えられるが、TrkBの分子量が大きいため、遺伝子治療用ベクターとして活用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)に組み込んでも、高発現させることが困難だった。
そこで研究グループは、TrkBの活性部位のみを切り出し、人工的に細胞膜に結合させることにより、常に活性型となるTrkB分子を開発した。この方法では分子量が小さくなるために全長TrkBよりも高発現が得られ、BDNFが無くても常にTrkBシグナルを活性化させることが可能だという。
遺伝子治療で緑内障進行時期に網膜神経節細胞が多数残存、外傷後の視神経軸索再生も確認
次に、この活性型TrkB分子を組み込んだ遺伝子治療ベクター(AAV-F-iTrkB)を緑内障モデル動物の眼内に注射した。このマウスでは生後3~12週にかけて緑内障が進行するが、生後10日目に遺伝子治療を行った場合には、生後5週と12週で多くの網膜神経節細胞が生き残っていることが判明した。
さらに、視神経損傷の外傷モデルマウスにおいても同様の遺伝子治療を行い、一旦傷んだ視神経軸索を再生できるか調べた。通常は再生線維がほとんど観察されないが、遺伝子治療を行うと2週間、4週間と時間が経過するにつれ、多くの再生線維が伸長した。また、4週間後では、一部の線維が視交叉に到達することが確認された。
遺伝子治療で、視覚経路切断マウスの視機性動眼反射が一部改善
視神経損傷モデルでは、視力を回復させることはできなかった。そこで次に、軸索の再生距離が短くても視機能が改善しやすいモデルとして、視覚中枢である上丘において視覚経路を切断したマウスを作製した。このマウスの眼球内に遺伝子治療ベクターを投与すると、多くの再生線維が切断部位を超えて、上丘内に到達した。視機能が回復しているかを調べるために視機性動眼反射を計測したところ、遺伝子治療群では部分的ながら、改善することが確認できたとしている。
緑内障においては眼圧降下以外の治療法がなく、また、緑内障や外傷によって傷んだ視神経は再生できないと考えられてきた。しかし、今回の研究成果により、生き残っている網膜神経節細胞に活性型TrkBを導入する遺伝子治療を行うと、緑内障の進行抑制や、変性した視神経を再生できる可能性が示された。「今後は遺伝子治療や細胞移植を含めた、総合的な治療法の発展が期待される」と、研究グループは述べている。
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