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統合失調症における男女差、脳内遺伝子発現レベルから明らかに-東北大ほか

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2022年12月09日 AM11:23

何十年にもわたって議論されたものの、いまだ不明点が多い統合失調症の男女差

東北大学は12月8日、健常者および統合失調症患者の背外側前頭前野トランスクリプトームの大規模データを解析し、その結果統合失調症を罹患した女性では、男性より多くの遺伝子発現が変動していることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の兪志前講師、富田博秋教授、京都大学の長﨑正朗教授、千葉大学の橋本健二教授、熊本大学の岩本和也教授、東北大学の植野和子研究員、舟山亮准教授、中山啓子教授、木下健吾教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Neurobiology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

統合失調症は慢性的かつ重度な精神疾患であり、時間の経過とともに心理、社会、認知的健康状態に悪影響を及ぼす。統合失調症における性差は何十年にもわたって議論されており、発症年齢、有病率、表現型、および男性と女性の間の治療効果について異なる臨床症状を示すことが報告されている。たとえば、統合失調症の発症率は女性より男性がやや高い一方で、女性の発症年齢が遅いことが報告されている。さらに、女性は治療薬に対する反応が良く、自殺のリスクが低いことも知られている。統合失調症におけるこれらの臨床的性差がどのように起こっているかは不明だが、中枢神経系におけるDNAメチル化異常による遺伝子転写の変動が一因であることが想定されている。

女性患者ではGABA抑制性ニューロンのミトコンドリア機能に関与する遺伝子がより多く変動

今回、研究グループは、多施設の大規模死後脳研究から健常者および統合失調症患者のRNA-Seqデータを用いて、背外側前頭前野の遺伝子発現レベルの差を男女それぞれで比較した。その結果、女性の統合失調症患者は男性より多くの遺伝子が変動しており、それらはGABA抑制性ニューロンおよびミトコンドリア機能に関与していることが明らかになった。

ミトコンドリア代謝を制御するACSBG1遺伝子のDNA高メチル化領域の関与が示唆

また、DNAメチル化が遺伝子の変動に影響を及ぼすかどうかを母体免疫負荷による統合失調症モデルマウスで検証した。その結果、雌マウスでは雄マウスよりも強い統合失調症様行動を示し、前頭前野における顕著なDNAメチル化および多くの遺伝子発現変動を確認した。また、統合失調症を罹患した女性と雌マウスで変動した遺伝子の結果を比較したところ、ミトコンドリア代謝を制御するACSBG1遺伝子の変動を特定した。さらに、統合失調症を罹患する女性の死後脳検体を用いてACSBG1のDNA高メチル化領域を確認した。この結果から、ヒトACSBG遺伝子に存在する6種類のバリアントの中で、NM_001199377バリアントにおける遺伝子発現減少を転写領域で確認し、このバリアントにおけるタンパク質構造の欠損および低い溶解性(安定性)が知られていることから、ミトコンドリア機能に関与することを示唆された。

統合失調症の性差におけるリスク因子、発症メカニズムの解明、発症の予測・診断にも期待

現在、統合失調症における臨床的性差が報告されているが、そのメカニズムは十分に解明されていない。今回の研究は脳の特定領域のトランスクリプトーム解析により、性特異的な遺伝子の発現変動を特定し、分子生物学的視点から臨床症状を説明できる証拠を示した。「女性で特異的に変化した遺伝子は、抑制性ニューロンに関与し、本研究結果は統合失調症の性差におけるリスク因子、および発症メカニズムの解明、その知見に基づいた発症の予測・診断の開発に寄与することが期待されている」と、研究グループは述べている。

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