テレワークによる身体活動量の変化と、その影響をどのように捉えているのかを分析
筑波大学は12月7日、長期間のテレワークが運動不足への危機意識を低下させる可能性があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院 システム情報系の谷口守教授、石橋澄子氏(社会工学学位プログラム 博士前期課程1年次)の研究グループによるもの。研究成果は、「Transportation Research Interdisciplinary Perspectives」に掲載されている。
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健康で活力のある都市は、そこで暮らす人々の健康なしには成り立たない。COVID-19の流行により都市生活は大きく変わったが、それが都市の健康に与えた影響については明らかにされていない。健康には十分な身体活動が欠かせない。これには、スポーツや運動を目的とした活動に加え、電車に乗る、歩くなど、都市内で行われる「移動」も含まれる。とりわけ就業者にとっては、オフィスへの「通勤」が、自然と身体活動量を確保するための重要な手段の一つになっているが、COVID-19の流行下で通勤を伴わないテレワークが急速に広まった。
そこで研究グループは今回、このような働き方の変化によって、就業者の身体活動量がどれだけ変化したのか、また、活動のリモート化がもたらす運動不足の影響をどのように捉えているのかを分析した。
コロナ禍でも就業していた4,484人を対象に、移動による身体活動量を比較
研究では、国土交通省の行った「新型コロナ生活行動調査」というアンケート調査の結果を利用した。同調査は2020年8月にウェブ上で行われたもので、全国の18歳以上の1万2,872人から回答を得ている。回答者は3つの時期(COVID-19流行前、第1回緊急事態宣言中(2020年4月16日〜5月13日)、その解除後)の平均的な平日における15分ごとの生活行動を振り返って回答した。これら3時点全てで仕事をしていた就業者4,484人の回答を抽出し、各時期の交通手段ごとの移動時間を調べ、そのデータに運動強度を紐づけて、身体活動量を計算した。
そして就業者を3時点での働き方の変化のパターンから、4つのグループ(1. 通勤→通勤→通勤、2. 通勤→テレワーク→通勤、3. 通勤→テレワーク→テレワーク、4. テレワーク→テレワーク→テレワーク)に分けて、移動による身体活動量を比較した。このとき、働き方の変化の影響とCOVID-19の影響を区別するため、通勤のための移動とそれ以外(例えば買い物)の移動による身体活動量を区別した。
通勤者の身体活動量のほとんどは通勤、通勤移動のないテレワーク者の身体活動量は著減
その結果、通勤をしている人は、平均で合計約4.5METs×hを通勤から得ているのに対し、それ以外の移動からは平均で合計約0.8METs×hと、移動による身体活動量のほとんどを通勤によって得ていることが判明。テレワークをしている人は、通勤以外の移動による身体活動量は、通勤している人よりも多くなっていた(平均で合計約1.0METs×h)ものの、通勤の移動がないため、全体としては著しく減少していた。この傾向は、特に若い人や女性で顕著に見られたという。
テレワークの継続で、日常的な運動不足に対する危機意識が低下
また、それぞれのグループで、活動のリモート化がもたらす運動不足への危機意識を尋ねた質問の回答を集計したところ、緊急事態宣言中にテレワークを始め、解除後も継続している人たちのグループが活動のリモート化による運動不足を最も危惧しており、移動による身体活動量が減少した反面、スポーツなどをする時間を増加させていた。一方、COVID-19流行前からテレワークをしているグループは、移動による身体活動量が最も少なく、スポーツなどをする時間も短い上、活動のリモート化による運動不足への危機意識も最も低いことがわかった。
つまり、テレワークへの突然の転換は運動不足への危機意識を一時的に高めるものの、長い期間テレワークを続けることによって、日常的に運動不足であるにも関わらず、それに対する危機意識は低下していく可能性があると言える。
移動や運動しやすい都市構造や、運動時間を確保できる働き方の仕組み作りが不可欠
テレワークは、今後、働き方の一選択肢として定着すると予想される。その中で都市の健康、都市で暮らす人々の健康を支えていくためには、通勤以外の日常的な移動や運動がしやすい環境を作っていくことが大切だ。歩く、走る、自転車に乗るなどの移動や運動のしやすい都市構造や、そういった活動をする時間が確保しやすい働き方の仕組み作りが不可欠になると考えられる。
COVID-19の流行が長期化する中で、働き方に関連する制度や支援、都市のあり方も変化を続けている。「本研究で扱った3時点を超えて、さらにテレワークが長期化した際の人々の意識や行動の変化を分析し、健康な暮らしを支える都市環境に関する提言につなげる予定だ」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL