COVID-19後遺症患者の多くがスティグマを経験
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(以下、後遺症)が生じた人は、長期にわたって、倦怠感やブレインフォグ、息切れなどの症状と闘っている。しかし、後遺症患者を悩ませているのはそのような症状だけではないようだ。後遺症患者の約95%が少なくとも1種類のスティグマ(偏見や差別)を経験したことがあり、4人に3人は、そうしたスティグマをかなりの頻度で経験していることが、新たな研究から明らかになった。英ブライトン・アンド・サセックス・メディカルスクールのMarija Pantelic氏らが実施したこの研究の詳細は、「PLOS ONE」に11月23日掲載された。
画像提供HealthDay
米疾病対策センター(CDC)によると、COVID-19で入院した患者の約30%が後遺症を発症する。COVID-19の後遺症の影響は多臓器に及び、多くの場合、長引く健康状態の悪化や機能障害から仕事や学業などの日々の活動が制限される。しかし、後遺症に関してはまだ不明なことが多いため、他者の理解を得にくいのが現実である。このことを反映して、最近では患者の経験したスティグマに関する報告が相次いでいる。
Pantelic氏らは、2020年11月に実施されたCOVID-19後遺症に関するオンライン調査参加者のうち、同意を示した人に追跡調査を実施した。調査には、同氏らが開発した、3種類のスティグマに関する13項目から成る質問票も用いた。3種類のスティグマとは、1)実際に偏見や差別を受けた経験を意味する「実際に生じたスティグマ」、2)自身の健康に関する否定的な見方を受け入れる「内面化されたスティグマ」、3)他者から今後、偏見や差別を受けるものと考える「予期されたスティグマ」である。スティグマの経験頻度は「少なくとも時々」または「頻繁に/常に」の2通りに分けた。解析は、追跡調査を完了した1,166人のうち英国居住者である966人(平均年齢48.3歳、女性84.6%)を対象に実施した。このうちの888人は、スティグマに関する調査にも回答していた。また、ほぼ半数(50.4%)は、COVID-19後遺症と診断されたことを報告していた。
その結果、95.4%の人が何らかのスティグマを「少なくとも時々」経験しており、また、「実際に生じたスティグマ」を「少なくとも時々」経験した人は62.7%に上ることが明らかになった。そうした人は、周囲の人々が、後遺症の程度について自分が嘘をついているかのように振る舞ったり、一緒にいるのを嫌がったり、不親切になったり、連絡の途絶えた人がいたことを報告していた。また、90.8%の人は「予期されたスティグマ」を、86.4%の人は「内面化されたスティグマ」を「少なくとも時々」経験していた。さらに、COVID-19後遺症の診断を受けた人は、診断されていない人に比べて、種類や頻度を問わずスティグマを経験する人の割合が高かった。このようなスティグマの経験から、60.9%の人が「後遺症のことを話す相手については非常に慎重になっている」とし、33.7%の人は「後遺症の発症について他の人に話したことを後悔している」(頻度はいずれも「少なくとも時々」)とするなど、自分の症状について口を閉ざしがちになっていることが示された。
米UTHealth HoustonおよびMemorial Hermann Hospitalの感染症の専門家であるLuis Ostrosky氏は、「COVID-19のスティグマが生じているのは英国に限ったことではない。この研究結果は、私がいつも患者から聞いている内容と同じだ。COVID-19後遺症という診断を受けることで、患者は負い目を感じてしまうのだ」と話す。
Ostrosky氏は、「残念なのは、COVID-19後遺症のスティグマの増長に医師も加担していることだ」と指摘する。同氏は、「医師は後遺症について詳しくないため、患者の訴える病状に耳を傾けないし、どのような診断を下して治療すべきかも分からないのだ。そのため、多くの後遺症患者が精神疾患と誤って診断されている」と説明する。また、患者の勤める会社や保険会社が医師の診断について何度も確認を要求するケースや、配偶者により仮病が疑われるケースがあることにも言及している。
米マウントサイナイ・サウスナッソーのAaron Glatt氏は、「COVID-19の後遺症のある人は、自分の症状の全てを文書化することで、スティグマに直接対抗できる。後遺症がどれほど大変であるかの理解が浸透していないため、スティグマに遭遇することはある。しかし、そうした場合にも、他の疾患と同様、医師による診断書を持っていれば、医学的な障害を持つ人と同じように扱ってもらえるだろう」と話している。
▼外部リンク
・Long Covid stigma: Estimating burden and validating scale in a UK-based sample
Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved.
※掲載記事の無断転用を禁じます。
Photo Credit: Adobe Stock