手術用スコープに必要な加温とクリーニング、最適な方法はまだ存在していなかった
大阪大学は12月6日、「手術用スコープの曇りと汚れ」という長年の基本的、普遍的な臨床課題を、日本が得意とする携帯カイロ技術を活用して解決する画期的な新製品「ラパホット」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科次世代内視鏡治療学共同研究講座の中島清一特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「第35回日本内視鏡外科学会総会」にて公開後、正式に発売される。
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「キズが小さい」内視鏡手術が実用化されて30年以上が経過したが、体腔に挿入するスコープの「曇り」、「汚れ」は未だ決定的な解決策のない、長年の課題である。手術用スコープは体腔へ挿入する前に加温しないと結露による曇りが発生し、視野が確保できず手術を安全に行えない。また、レンズに体液等の汚れが付着すると都度スコープを抜去し、クリーニングする必要がある。具体的な対策として、電熱ヒーターや化学的な発熱作用を利用した各種ウォーマー、加温水を滅菌魔法瓶に詰めて使用する温水法、バッテリ駆動のヒーターに界面活性剤を入れて使用する専用機器等、種々提案されてきたが、それぞれに一長一短があり、ゴールド・スタンダードはいまだに存在しない。医療現場では、取り扱いが容易で、準備するスタッフの負担が少なく、長時間の手術にも使用でき、かつ安価な対策品が長く求められてきた。
携帯カイロを利用したウォーマー兼クリーナーを開発、コストもかからずスタッフ負担も軽減
研究グループは、日本が世界市場を独占している「携帯カイロ」に、不織布表面に界面活性剤を浸透、乾燥、滅菌する「ものづくり」技術を適用し、曇りの予防(ウォーミング)と汚れの解消(クリーニング)をワンストップで同時に行える画期的な新製品「ラパホット」を開発した。
この製品は、携帯カイロの外装(不織布)表面に界面活性剤を浸透、乾燥させたうえで滅菌処理を施すことで、スコープを温めて曇りを防止するとともに、レンズの汚れも同時に除去できる「ウォーマー兼クリーナー」である。また、パッケージを開けるだけで使用でき、加温庫も不要、保管に大きな場所を要さない、一日症例(7時間以上)に使える等の点から、現在主流となっている「温水法」に伴う加温水の準備・補充や魔法瓶の洗浄・滅菌等、手術スタッフの負担軽減におおいに寄与すると考えられる。とくに、これまで市場に投入されたさまざまな専用機器・装置に比べてきわめて安価であることから、持続可能な開発目標SDGsゴール3「健康と福祉」達成のカギとされるUniversal Health Coverage (UHC、なお外科領域においてはglobal surgeryと表現される)の実現に貢献するものと期待される。なお、携帯カイロ市場は日本企業の占有率が高いことから、この製品は「世界規模の課題を日本のものづくり技術で解決する」UHCデバイスと位置づけられるという。
この製品は、研究グループが大衛株式会社(大阪府)と共同で設計、試作、性能評価を行い、安全性や有用性を検証、知財確保(特開2021-058360)したものであり、すでに同医学部附属病院手術部、同消化器外科における小規模臨床評価を通じてその安全性、有効性が最終確認されている。
既存製品に最小限の改良を加えて別用途に転用する「デバイス・リポジショニング」
開発された製品は、従来法ないし従来製品がかかえる「術前の煩雑な準備」、「術中のスタッフの負担」といった課題を解消するという点で、国が掲げる医療機器重点分野のひとつ「医療従事者の業務効率化・負担軽減に資するデバイス」に位置づけられる。また、携帯カイロという既存製品に最小限の改良を加えて別用途に転用する「デバイス・リポジショニング」という開発手法により、研究開発に要する時間とコストを最小限に押さえることに成功した初の製品となる。
研究グループは、「本製品は、1)もととなる携帯カイロは日本が世界市場を独占し、圧倒的な技術優位を維持していること、2)日本での臨床試用に加え、先月にはAll India Institute of Medical Sciences (全インド医科大学)においても臨床評価が開始されるなど海外展開を視野に入れたプロモーションを開始済みであること、等から、世界規模の課題を日本のものづくり技術で解決し、SDGsの重要な柱の一つであるUHCの実現につなげる製品として将来の世界展開が期待されている」と、述べている。(QLifePro編集部)