腸上皮傷害後再生、I型コラーゲンで「YAP/TAZ」が誘導され上皮細胞変容する詳細は?
東京医科歯科大学は12月2日、腸上皮傷害後の再生過程における「I型コラーゲン」を起点とした腸上皮細胞の運命転換の背景に存在する複雑な分子ネットワークの全容を解明したと発表した。この研究は、同大統合研究機構 再生医療研究センターの油井史郎准教授と、同大消化器病態学分野の小林桜子大学院生、小笠原暢彦大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration」オンライン版に掲載されている。
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研究グループは、腸上皮傷害後の再生過程において、間質に上皮の支持組織であるI型コラーゲンが増生することで上皮細胞に転写因子「YAP/TAZ」が誘導され、胎児期前駆細胞様の変容が生じるという革新的な概念を提唱してきた。しかし、I型コラーゲンにより誘導される転写動態、遺伝子発現のダイナミックな変化に関する詳細な機構については未解明な点が多く存在していた。
AP-1、RUNX2活性が複合的に誘導されることで上皮細胞変容が生じると判明
研究グループは今回、再生時の上皮変容を再現することが知られる独自開発のI型コラーゲン内で培養したマウスの腸管上皮細胞に対してRNAシーケンスとATACシーケンス解析を施行し、遺伝子発現のみならず転写動態についても網羅的に解析を行った。
その結果、腸上皮の再生過程においては、転写因子YAP/TAZのみならず、AP-1、RUNX2の活性が複合的に誘導されることで上皮細胞変容が生じることが明らかになった。
I型コラーゲン内で培養したヒト成体上皮細胞は潰瘍性大腸炎の遺伝子特性と高い相同性、ハブ遺伝子も特定
さらに、ヒト成体上皮細胞にもI型コラーゲン内の培養法を適用し、RNAシーケンス解析を施行した結果、潰瘍性大腸炎の遺伝子プロファイルと高い相同性を示しており、さらにはヒトにおける腸上皮再生過程ではマウスと同様にI型コラーゲンを介した転写因子YAP/TAZの活性化を主軸とする上皮細胞変容が生じることが明らかになり、フィブロネクチンなど重要なハブ遺伝子が特定されたとしている。
今回の研究は、研究グループが開発したI型コラーゲンによる独自の腸上皮培養技術を軸に、仁科博史教授の研究グループが有するYAP/TAZに関する専門的知見の支持を得て施行された。腸上皮の再生過程においてI型コラーゲンを介して複数の転写因子が複合的に誘導され、ダイナミックな腸上皮細胞の運命転換が生じることを示した本研究成果は、腸上皮細胞の細胞外基質との相互作用に着目した炎症性腸疾患に対する新規治療法開発への応用が期待される、と研究グループは述べている。
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