人工呼吸器離脱後患者90人対象、正常群と誤嚥群で最大舌圧値を測定
東邦大学は12月2日、人工呼吸器が使用された患者(脳血管障害原因を省く)に対して、舌の圧力を測定し、人工呼吸器離脱後の食事開始による誤嚥性肺炎の発症予測ができるかを調査した結果を発表した。この研究は、同大医学部総合診療・救急医学講座の一林亮講師、本多満教授、同医学部口腔外科学研究室の関谷秀樹准教授、兼古晃輔助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
人工呼吸器を使用した患者の約半数は嚥下機能の低下を一時的にきたし、状況によっては食事を再開した時に誤嚥性肺炎をきたす。このため、原疾患が良くなったとしても誤嚥性肺炎を発症し、人工呼吸器の再装着、入院期間の延長など患者に弊害をきたす。これまで反復唾液嚥下テストや水飲みテストなど複数のスクリーニングテストを行うことにより嚥下障害の存在を確認してきたが、スクリーニングで存在なしと判定されても、その2割弱の患者で誤嚥を生じ、誤嚥性肺炎が発生していた。
今回の研究では人工呼吸器離脱後の患者90人に対して、6時間後と24時間後に最大舌圧値(MTP)を測定。これら90人の患者は、誤嚥をしなかった正常群と誤嚥群に分けられ、患者背景として誤嚥をきたした群は正常群と比較して高齢だった。
6時間後と24時間の最大舌圧値低下、患者の誤嚥発症に関連
研究の結果、正常群では抜管6時間後と24時間後にMTP値の有意差は認められなかったが、3日後には値が有意に増加していた。誤嚥群のMTP値は、抜管後1週間で回復しなかった。抜管後6時間のMTP値は、正常群(25.5kPa)よりも誤嚥群(13.9kPa)で有意に低いことがわかった。
今回の研究において、抜管後24時間で誤嚥群の値は18.7kPaに回復したが、既存報告による正常値(30kPa)を下回っていた。したがって、嚥下障害を予測する抜管の24時間以内にMTP値を測定することが重要と考えられる。
75歳以上患者、診断カットオフ値17.8kPaで有意に誤嚥リスク判定が可能
続いて同研究では、抜管の6時間後および24時間後のMTP値のROC曲線による解析で、MTP値が誤嚥を予測するための指標として使用できることを示した。6時間後のMTP値の診断カットオフ値は17.8kPaで陰性適中率は92.2%。24時間後のMTP値の診断カットオフ値は23.2kPaで、陰性適中率は94.9%だった。
また、同研究結果は、年齢が抜管後の誤嚥の危険因子であることを示している。75歳以上という年齢因子と救命センター搬入原因疾患という2つの交絡因子調整後の統計的解析では、6時間後の診断カットオフ値17.8kPaによって、有意にリスク判定が可能という結果を示した。
経口摂取再開時期、摂食嚥下リハビリの必要性や実施後の有効性判定に期待
今回の判定方法は従来の摂食嚥下機能のスクリーニング検査に加え、24時間以上挿管された高齢者や緊急患者の経口摂取を開始する時期を決定するために使用できるという。さらに、MTP値の変化を使用して、経口摂取を再開できる最適な時期と、摂食嚥下リハビリテーションの必要性や実施後の有効性を判定できるとしている。誤嚥性肺炎発症を予防することは、入院期間の短縮や医療費の減少に寄与する可能性がある。そのため、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による人工呼吸器装着患者での廃用症候群による摂食嚥下障害への応用も期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東邦大学 プレスリリース