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胆道がん発生に、HBOC/遺伝性大腸がんの原因遺伝子のDNA修復異常が関与-理研ほか

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2022年12月02日 AM11:40

胆道がんの遺伝因子を詳しく解析

(理研)は12月1日、胆道がん患者のDNAを解析し、胆道がんの原因遺伝子・発症リスク・臨床的特徴について明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの大川裕貴研修生(北海道大学大学院医学院博士課程)、中川英刀チームリーダー、基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室IIの平野聡教授、中村透助教らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Hepatology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

胆道は、肝臓で産出された胆汁を十二指腸へ輸送、または蓄える器官(胆嚢)。その上皮細胞から発生した悪性腫瘍が胆道がんであり、発生部位によって、肝内胆管がん、肝門部胆管がん、遠位胆管がん、ファーター乳頭部がん、胆嚢がんに大きく分類される。これらの部位によって、発症リスクや悪性度、予後などの生物学的特性が異なり、また外科手術などの治療法も変わる。

胆道がんは世界的にみるとまれだが、日本やアジアにおいては発生頻度が高く、日本では2017年に年間約2万2,500人が発症、約1万8,000人が死亡しており、6番目に死亡数が多いがん腫である。長期生存が唯一期待できる治療法は外科的切除だけだが、胆道がんは転移や浸潤能が非常に高く、周囲に重要な血管が多数ある複雑な部位に発生するため根治的手術は困難だ。日本肝胆膵外科学会のデータでは、胆道がんの切除率は約70~95%と報告されているが、大規模病院に限られたデータのため、実際にはこの数値よりも低いと予想される。外科切除不能例や再発時に有効な化学療法や分子標的治療は少なく、5年生存率はわずか27%と極めて難治性のがんだ。

胆道がんの発生には、胆石症や慢性胆のう炎、胆管炎、いくつかの化学物質の暴露がリスク因子と考えられている。また、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)などの遺伝性腫瘍においても、胆道がんが発生することが報告されており、遺伝因子が重要な発生要因と考えられている。共同研究グループはこれまでに、大規模な横断的がんゲノム疫学解析により、日本人では、HBOCの原因遺伝子であるBRCA1/2が、乳がん卵巣がんのほかに胆道がん、胃がん、食道がんの発生と関連することを発表している。今回の研究では、胆道がんに焦点を絞って、さらなる解析と研究を進めた。

胆道がん患者1,292人のゲノム解析データから317個の病的バリアント

北海道大学病院とバイオバンク・ジャパンにより収集された胆道がん患者1,292人および対照群3万7,583人の血液または正常組織DNAを、理研が独自に開発したゲノム解析手法を用いて解析した。解析対象は、米国国立包括がんネットワーク(NCCN)ガイドラインで検査が推奨されている12遺伝子、および研究開始当時に遺伝性がんパネルで検査対象となっていた25遺伝子から選抜した15遺伝子の計27個の遺伝性腫瘍関連遺伝子とした。

解析の結果、5,018個の遺伝的バリアントを同定した。さらに、これらの遺伝的バリアント一つ一つを米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)および分子病理学会(AMP)が作成したガイドラインや、国際的データベースであるClinVarの情報に基づいて、病的バリアントか否か評価した。その結果、317個の遺伝的バリアントが病的バリアントであると判定された。

、PALB2など5つの病的バリアント保有で胆道がん発症リスクが上昇

そして、胆道がん患者群の5.5%(71人)が、遺伝性腫瘍関連遺伝子の病的バリアントを保有しており、病的バリアントを持つことで胆道がんへのなりやすさ(発症リスク:オッズ比)が約4.1倍に高まることがわかった。病的バリアントを保有する胆道がん患者は、発症年齢が若く、乳がんの既往歴または家族歴があり、また肝内胆管がんの症例が多い傾向にありましたが、予後との関連は見られなかった。

遺伝子ごとの解析では、5遺伝子(BRCA1、、APC、、PALB2)が胆道がん発症に寄与していることが統計学的に明らかになった。遺伝子別には、HBOCの原因遺伝子であるBRCA1(P=4.2×10-10)とBRCA2(P=2.2×10-7)は、相同組換え修復というDNA修復機構に関わっており、前立腺がんや膵臓がんとの関連もすでに明らかになっている。これら遺伝子の病的バリアントを保有すると、胆道がん発症のリスクがそれぞれ13.6倍、6.5倍になることがわかった。同様にDNA修復機構に関わるPALB2遺伝子(P=0.01)も乳がん発生との関連が臨床的に実証されているが、病的バリアントを保有すると胆道がん発症リスクが5.3倍になる。

また、遺伝性大腸がんの原因遺伝子で、DNAミスマッチ修復遺伝子のMSH6(P=7.6×10-4)では、病的バリアントを保有すると胆道がん発症リスクが5.2倍になる。家族性大腸腺腫症というまれな遺伝性大腸がんの原因遺伝子であるAPC(P=4.1×10-5)は、頻度は少ないものの、ファーター乳頭部がんの発生と特に関連があり、病的バリアントを保有すると胆道がん発症リスクは18.2倍になることが判明した。

全ゲノムシークエンス解析により、DNA修復異常で蓄積した構造異常などを検出

このように、胆道がんの発生にはDNA修復機構の異常が深く関わっていることから、北海道大学病院において切除された胆道がんの組織を用いて、DNA修復機構欠損(HRD)によって蓄積したゲノムの「傷跡」の検出を試みた。52例の胆道がん組織と正常組織からDNAを抽出し、全ゲノムシークエンス解析を行った。その結果、点変異、構造異常、コピー数異常が網羅的に同定され、HRD陽性の胆道がんは、HRD陰性の胆道がんに比べて、構造異常やコピー数異常が多いことが判明した。

HRD標的のPARP阻害剤やDNA障害性の化学療法、放射線療法が期待できる可能性

これらの情報の中から、HRDによって誘発される特徴的な変異を抽出し、機械学習の手法を用いて、HRDの有無を判定しました。遺伝性腫瘍で生殖細胞に病的バリアント(1ヒット)が存在する場合、通常、染色体欠失などの体細胞変異(セカンドヒット)が起きて2コピーとも欠損し、機能喪失となる。解析の結果、BRCA2遺伝子やPALB2遺伝子のセカンドヒットが起きている胆道がんのみが、HRD陽性と判定され、BRCA1/2遺伝子のセカンドヒット(体細胞変異)のない胆道がんは、HRD陰性だった。また、相同組換え修復機構と遺伝性腫瘍と関連が証明されている他の遺伝子(BRIP1とATM遺伝子)の病的バリアントを保有し、かつセカンドヒットが起きている胆道がんについても、HRD陰性だった。

BRCA2遺伝子の病的バリアントを保有し、HRD陽性の1例の胆道がんについては、再発時に、DNA障害性薬剤のシスプラチンを用いた化学療法や放射線療法の効果があった。HRD陽性の胆道がんについては、HRDがん細胞を特異的に細胞死させるPARP1阻害剤の効果も期待できると考えられる。

今回の研究成果により、相同組換え修復欠損のDNA修復機構の関わる遺伝子が胆道がんの発生に深く関与することがわかった。胆道がんについても、HRDを標的としたPARP阻害剤やDNA障害性の化学療法、放射線療法の効果が得られると考えられ、がんのゲノム医療や個別化医療への貢献が期待できる。

「日本人の胆道がんの少なくとも5.5%に遺伝性腫瘍が含まれていることが判明したことから、ゲノム医療によって、本人および家族についてもがんのリスク診断や予防を積極的に進めていくべき」と、研究グループは述べている。

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