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妊娠初期のマラリア治療、大規模研究から最適な治療薬を明らかに-東大医科研ほか

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2022年12月01日 AM11:06

標準治療ACTが使えない妊娠中の推奨薬は、治療失敗率が高く忍容性も悪い

東京大学医科学研究所は11月29日、妊娠中のマラリア薬の最適化のため、妊娠初期における抗マラリア薬の安全性の解析結果を公表したと発表した。この研究は、同研究所附属先端医療研究センター感染症分野の齋藤真助教、、The WorldWide Antimalarial Resistance Network()、リバプール大学らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

マラリアの流行地域である熱帯〜亜熱帯地域は人口が拡大している地域にも重なり、世界中で毎年1億人以上の妊婦がマラリア流行地域に居住していると推定されている。妊娠中にマラリアに感染すると、母体死亡のリスクが高いのみでなく、胎児死(流産・死産)、早産、胎児発育不全と、母児ともに悪影響を及ぼすことが知られており、どのように感染を防ぐか、感染してしまったらどのように治療してその悪影響を軽減できるかが課題となっている。しかしながら、妊娠中、特に器官形成期である妊娠初期(第一三半期)には胎児毒性・催奇形性の懸念があり、より新しい、効果の優れた薬が使えないことがしばしばある。

2006年に世界保健機構(WHO)がマラリア治療ガイドラインを制定して以来、(artemisinin-based combination therapy)が熱帯熱マラリアに対する標準治療薬として推奨されてきた。その唯一の例外が妊娠初期の女性であり、動物実験で示唆されたアルテミシニンの胎児安全性への懸念から、(とクリンダマイシンの併用療法)が推奨薬となってきた。しかしながら、主に妊娠中後期のデータを用いた研究グループの以前の研究ではこのキニンの治療失敗率がACTに比べて著しく高く、また忍容性も悪いことが示されており、治療失敗により繰り返しマラリアが再発し、胎児への悪影響が蓄積していく危険性が問題となっていた。また、このごく限られた用途のためにだけキニンを用意しておくことはマラリア蔓延国の医療システムに大きな負担を強いるものだった。

ACTはキニンより有効性、安全性、忍容性、治療期間など優れると判明、個別データメタ解析で

今回の研究は、10か国の12のコホートから得られた3万4,178人に及ぶ妊婦の既存データを対象として、個別患者データを用いて多階層解析を実施したものである。論文上で発表された結果をまとめるだけのいわゆるメタ解析とは異なり、さまざまな研究で集められた個別のデータを標準化し、単一のデータセットに集積し、特別な統計手法を用いることであたかも一つの研究と同じようにデータを解析することが可能となる。このことにより、異なる研究デザインで得られた研究データをより適切に解析・要約することが可能であり、元の研究論文で解析が不可能であったようなさまざまなリサーチクエスチョンに対する統計的検出力も大きくなる。これは特に今回のようにデータの収集が困難な問題に対して特に有効な研究手法で、個別データメタ解析と呼ばれる。

今回の研究では、妊娠初期にアーテミシニンを含む何らかの治療薬に曝露した妊婦と、それ以外の抗マラリア薬に曝露した妊婦、いずれにも曝露しなかった妊婦に関して、曝露後のすべての胎児死亡、奇形のリスクについて評価を行った。

その結果、アーテミシニンを含む治療全体として胎児死亡や奇形のリスクの増加は認められず(調整ハザード比0.71、95%信頼区間:0.49~1.03)、特にACTや、その中でも最も多くのデータが存在するAL(アルテメテル-ルメファントリン)に関しては標準治療薬であるキニンよりもそれらのリスクが42%(95%信頼区間:8~64%)低いことが示された。これは、ACTの高い治療効果はマラリアの感染自体による悪影響をある程度緩和できることを示唆している。先行研究の結果も併せ、ACTはリスク/ベネフィット上キニンより治療有効性、母児への安全性、忍容性、治療期間の短さ、マラリア伝播抑止の上でより優れていることが示されたことになる。

WHOのマラリア治療ガイドライン、初版以降で初めて標準治療薬が変更に

今回の研究結果に基づき、WHOのマラリア治療ガイドラインは2006年の初版以降で初めて標準治療薬が変更された。この改定により、全ての妊婦を含む全患者に対して熱帯熱マラリアの標準治療はACTに統一されることになる。このことは妊婦のみならず、マラリア蔓延地域における医療システムに対しても大きな負担・煩雑さの軽減となることと期待される。

「今回の研究で使用したデータの収集には20年以上の歳月を要しており、信頼できる安全性の臨床データを、特にマラリア蔓延地域のような低~中所得国において蓄積することの困難さを物語っている。より稀な有害事象などについて、今後も引き続き抗マラリア薬を始めとする熱帯病治療薬の安全性臨床データの収集を継続していくことが望まれる」と、研究グループは述べている。

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