6か月間ひきこもり状態把握のHQ-25をベースに新規開発
九州大学は11月30日、直近1か月間のひきこもり傾向を簡便に把握できる自記式質問票1か月版ひきこもり度評価尺度One Month version of Hikikomori Questionaire-25(以下、HQ-25M)を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の加藤隆弘准教授、日本大学文理学部心理学科の坂本真士教授、オレゴン健康科学大学のアラン・テオ准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)は、社会参画せずに6か月以上自宅にとどまり続ける状態のこと。ひきこもり状況にある人(以下、ひきこもり者)は国内110万人を越えると推定されている。コロナ禍による外出自粛やオンライン授業・在宅ワークの普及により、従来ひきこもりと縁のなかった人々でも病的なひきこもりに陥りやすい状況下にある。ひきこもりの予防および支援法・治療法の確立は、国家的急務だ。
九州大学病院では世界初のひきこもり研究外来を立ち上げ、ひきこもりの生物・心理・社会的理解に基づく支援法開発を進めている。その一環として、2018年、6か月間のひきこもり傾向を評価できる25項目の質問からなるひきこもり尺度Hikikomori Questionaire-25(以下、HQ-25)を日米共同開発した。HQ-25は、ひきこもりの重症度を簡便に評価でき、すでに6か国語以上の言語に翻訳され、世界中で活用されつつある。HQ-25は、6か月間のひきこもり状態を把握するツールであり、ひきこもりの予防や早期発見のためには、より早い段階でのひきこもりリスクをスピーディーに評価できるツールが求められていた。
そこで、今回の研究では、HQ-25をベースに直近1か月の状態を尋ねるスケールとして新たに「HQ-25M」を開発。その妥当性を予備的に検討した。
ひきこもり者含む未就労20~50代日本人男性762人対象オンライン調査
今回の研究で新規開発した自記式質問票HQ-25Mは、直近1か月間のひきこもり的な状況を把握するための質問票だ。6か月版のHQ-25と同様に、25項目の質問・3つの下位尺度(社会性の欠如、孤立、情緒的サポートの欠如)から成り立っている。
ひきこもりは、女性よりも男性に多く認められる。したがって、今回のパイロット調査では、ひきこもり者を含む未就労の20~50代の日本人男性762人を対象として2022年3月にオンライン調査としてHQ-25Mを実施。参加者は、回答に基づいて、「非ひきこもり群:ひきこもり的状況が一切ない人」「ひきこもり予備群:ひきこもり的な期間が6か月未満の人」「ひきこもり群:ひきこもり的な期間が6か月以上の人」の3つの群に分類した。
ひきこもり期間や心理的苦痛の強さと有意な正の相関あり、予備的な妥当性検証に成功
研究の結果、HQ-25Mの合計得点と社会的ひきこもりの期間との間に有意な相関を認めた。また、HQ-25Mの3因子もひきこもり期間と有意な正の相関を示したという。
HQ-25Mの合計得点と3つの下位尺度の得点の群間差を検討するために、被験者間の1要因分散分析を実施。「ひきこもり群」は、「非ひきこもり群」および「ひきこもり予備群」と比較して、全ての得点で有意に高いスコアだった。下位尺度では「孤立」の因子において、「ひきこもり予備群」の方が「非ひきこもり群」と比べて有意な高値を認めたという。
今回の調査では、HQ-25Mに加えて、過去1か月間の心理的苦痛を測る尺度K10も同時に実施。HQ-25MとK10の得点の関係を検討したところ、有意な正の相関が認められた。
以上のように、ひきこもり者を含む未就労者を対象としたオンライン調査により、1か月版ひきこもり度評価尺度HQ-25Mは、ひきこもり期間や心理的苦痛の強さと有意な正の相関があり、ひきこもりの早期発見を支援するツールとしての予備的な妥当性の検証に成功したとしている。
今後、国内外で、女性・重症ひきこもり者を含めてHQ-25Mの妥当性検証を
今回の研究は、オンライン調査に基づいており、ひきこもり評価に際しては最新の「病的ひきこもり」の国際診断基準を用いておらず、未就労の日本人男性に対象が限られているなど、いくつかの限界がある。今後、こうした限界を補い、日本だけでなく、ひきこもり者が報告されている国内外の現場において、女性やより重症のひきこもり者を含めた対象に対してHQ-25Mを実施することで、さらなる妥当性の検証を行う予定だ。
ひきこもりは、2022年に米国精神医学会が発行した精神疾患の国際的なマニュアルDSM-5TRで「hikikomori」として新たに掲載され、日本発の社会現象として世界中でその存在が注目されている。コロナ禍・ポストコロナの時代、世界中でhikikomori者の急増が懸念される。今回の自記式質問HQ-25Mが職場や学校などで広く活用されることで、ひきこもりリスクの高い方々の早期発見が実現し、病的なひきこもりに至ることを予防するための重要なツールとなることが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・九州大学 研究成果