症状がないFHPを対象とした研究は行われていなかった
金沢大学は11月29日、頭頸部前方位姿勢(Forward Head Posture,FHP)における易疲労性の要因が、僧帽筋上部線維の筋活動の異常にあることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大理工研究域フロンティア工学系の西川裕一助教、田中志信教授、小松﨑俊彦教授、茅原崇徳准教授、設計製造技術研究所の坂本二郎教授、中京大学の渡邊航平教授、広島大学の前田慶明講師、米国マーケット大学のAllison Hyngstrom教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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FHPは、頭頸部が前方へ出た姿勢のことを指す。この姿勢を長期間にとることで首周囲の痛みを引き起こすことが知られており、近年スマートフォンの普及などに伴い、若年者をはじめとする幅広い年齢層において急増している。また、頭頸部の筋肉の神経筋機能異常を引き起こすことが知られており、姿勢保持の耐久性低下などをもたらす。しかし、耐久性低下の要因は明らかになっていないことに加え、頭頸部痛などの症状がないFHPを対象とした研究は、これまで行われていなかった。
FHPは肩こりなどが主な症状だが、重症化すると頭痛や痺れ、背骨の変形といったさまざまな症状を引き起こすことが知られているため、早期からの予防や適切な治療法の確立が急務とされている。
頭頸部角度53度未満をFHPと定義、3種の姿勢保持中の僧帽筋上部線維での筋活動を解析
研究では、若年男性19人(FHP群 9人:22.3±1.5歳、正常群 10人:22.5±1.4歳)を対象とした。FHPの有無は頭頸部角度を計測し、53度未満をFHP群、53度以上を正常群と定義した。全ての対象者は、リクライニングシートに腰掛け、頭頸部の位置が最も楽な姿勢になるようにリクライニング角度を調整し、その姿勢をニュートラル姿勢とした。その後、シートから後頭部の距離を対象者ごとに計測し、Xの距離に合うピローを作成し、その状態からリクライニング角度を5度倒し、シートにもたれることができるように調整した。また、ニュートラル姿勢から頭の位置を5cm前に出した姿勢を「Forward姿勢」、後方へ5cm引いた姿勢を「Backward姿勢」とし、全3種類の姿勢をそれぞれ30分間保持させ、姿勢保持中は、全ての姿勢においてピローにもたれた状態とした。
姿勢保持中の僧帽筋上部線維の筋活動は、高密度表面筋電図法を用いて解析。また、主観的な疲労の評価として「visual analogue scale(VAS)」を行った。
FHP群は全ての姿勢で疲労の訴え「強」、僧帽筋上部線維の筋活動異常の是正が重要
解析の結果、FHP群は正常群と比較して全ての姿勢で疲労の訴えが強いことを確認し、正常群では、ニュートラル姿勢が最も疲労の訴えが少ないのに対して、FHP群ではいずれの姿勢においても疲労の度合いは変わらないことが明らかになった。また、FHP群は僧帽筋上部線維の過剰な筋活動が生じていることが判明した。
同結果は、FHP群は頭頸部位置を変えるだけでは疲労や筋活動は変化しないことを意味しており、さらに僧帽筋上部線維の筋活動異常を是正することが重要であることが示唆された。
長時間の座位姿勢が強いられる乗り物などのシート開発や、FHPの治療への応用に期待
今回の研究により、FHP群は正常群と比較して、ピローにもたれた状態でも疲労しやすく、頭頸部の筋活動量が多いことが明らかになった。また、FHP群は頭頸部位置を変えても疲労や筋活動が変化しないことが明らかになり、FHPを呈する人の疲労を軽減するためには、アームレストなどのピロー以外の対応が必要であることが示唆された。さらに、FHP群は僧帽筋上部線維の筋活動異常が確認され、FHPの治療ターゲットとして重要な部位であることが示唆された。
「これらの知見は、長時間の座位姿勢が強いられる新幹線や飛行機などのシート開発や、FHPの治療への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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