免疫制御分子・アラーミンの1つ「S100A8」と感染症との関係を調査
群馬大学は11月24日、肥満や糖尿病があると感染症で重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大生体調節研究所の白川純教授らと、筑波大学、横浜市立大学の共同研究によるもの。研究成果は「iScience」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
肥満や糖尿病を合併すると、新型コロナウイルスを含め感染症で重症化しやすくなることが知られている。肥満症や糖尿病の患者において感染症で重症化しやすい理由の解明、さらにその重症化を予防する治療法の開発が求められている。敗血症は、細菌感染時に、細菌や細菌が作り出すエンドトキシンとよばれる毒素が血液中に侵入し全身に広がる状態だ。敗血症では、免疫反応の連鎖により、サイトカインとよばれる炎症性タンパク質が過剰に産生される「サイトカインストーム」という状態に陥ると、致死率が高くなる。このサイトカインストームを抑えることが敗血症の治療や重症化予防において必要となる。
肥満や糖尿病では、体の中のさまざまな臓器において慢性的な炎症が生じていることが知られている。このような炎症などにより細胞が障害を受けた時に、細胞は免疫反応を調節するためにアラーミン(Alarmins)またはDamage-associated molecular patterns(DAMPs)と呼ばれる分子群を細胞から放出する。以前、白川純教授らの研究グループは、糖尿病状態ではインスリンを作り出す膵臓の膵島という組織にある膵β細胞においても、アラーミンの1つであるS100A8が産生され、膵島の炎症に関与していることを報告している。S100A8は、敗血症などの感染症においても重要な役割を果たしていると考えられてきた。しかし、肥満や糖尿病の患者におけるS100A8と感染症との関係はわかっていなかった。
敗血症時にS100A8はTLR4を介して起こるサイトカインストームを抑える役割
研究グループは、エンドトキシンであるリポポリサッカライド(LPS)や大腸菌の腹腔内投与、腸管穿孔モデルである盲腸結紮穿刺(CLP)による敗血症モデル用いて、敗血症ショックを起こした状態のマウスにS100A8を投与すると生存率が有意に改善することを見出した。また、敗血症時にS100A8は、体内の免疫細胞から産生され、エンドトキシンなどの受容体であるTLR4を介して起こるサイトカインストームを抑える役割を果たしていることを解明した。
肥満や糖尿病状態では敗血症時にS100A8産生できず、敗血症による死亡率「高」
一方、肥満や糖尿病のマウスでは、感染症のない状態では血液中のS100A8が、肥満や糖尿病がない状態よりも高い値を示すことがわかった。しかし、肥満症や糖尿病があるマウスや、免疫細胞でS100A8遺伝子を欠損したマウスでは、敗血症時にはS100A8を免疫細胞が産生することができず、敗血症ショックによりサイトカインストームが悪化し死亡率が高くなることも判明した。
肥満や糖尿病状態のマウスへのS100A8補充は敗血症の治療や重症化予防に
さらに、肥満や糖尿病状態のマウスにS100A8を補充すると、敗血症ショックにおけるサイトカインストームを抑制することで、生存率は改善され、治療や重症化予防になることも示された。
新型コロナ等の感染症の重症化予防への応用に期待
研究により、肥満や糖尿病が敗血症で重症化しやすくなる新しいメカニズムがわかり、またS100A8を適切に補充することが敗血症の治療や重症化の予防に役立つ可能性も示唆された。現在、世界中でまん延している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、肥満症や糖尿病は重症化しやすい基礎疾患であり、またCOVID-19の病態や重症化にS100A8が関与する可能性も示唆されている。「研究成果は、肥満症や糖尿病などの感染症で重症化しやすい基礎疾患を有する患者において、重症化を防ぎ致死率を改善させる治療につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・群馬大学 プレスリリース