腎臓病などさまざまな疾患状態を鋭敏に反映するD-アミノ酸
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は11月28日、D-アミノ酸が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化予測および重症化予防に有用であることを発見したと発表した。この研究は、同研究所難治性疾患研究開発・支援センターの木村友則センター長、大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆教授との研究グループによるもの。研究成果は、「Biochimica et Biophysica Acta-Molecular Basis of Disease」に掲載されている。
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2019年以降、新型コロナウイルス感染症患者は全世界累積で6.2億人を超えている。約2年間で、PCR反応等を活用したウイルス検出法の開発は進んだが、いまだに重症化予測や治療法開発は困難だ。多くの患者は無症状ないし軽度から中等度の症状を呈するが、高齢者などのリスクの高い患者は重症化して呼吸不全となり、人工呼吸器ないし体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)などを活用した集中治療が必要となる。現段階では、どの患者が重症化するかを予測することができないため、症状の軽い人も注意深い経過観察が必要になる。また、重症化した患者を早期から集中治療するのも難しい状況だ。
一方、アミノ酸にはL-体とD-体のキラルアミノ酸(鏡像異性体のアミノ酸)があるが、体内にはL体しか存在しないと長い間、考えられていた。しかし、これまでの研究により、体内にはごく少量のD-アミノ酸が存在し、腎臓病などさまざまな疾患の状態を鋭敏に反映することがわかってきた。D-アミノ酸は新しい視点から病気の状態を反映することから、研究グループはD-アミノ酸測定が新型コロナウイルス感染症を含む重症ウイルス感染症の評価に活用できるのではないかと考え、検討を進めた。
D-アミノ酸血中濃度、COVID-19重症患者で低値
まず研究グループは、重症ウイルス感染症モデルマウスにおいて、D-アミノ酸を評価。D-アミノ酸の測定には2次元HPLCシステムを利用した。インフルエンザウイルスで重症感染を起こしたところ、感染したマウスで血中のD-セリン、D-プロリン、D-アスパラギン、D-アラニンの濃度が極端に低下した。
次に、ヒトCOVID-19患者でも重症化の評価に活用できるかを検討。人工呼吸器ないしECMOを必要としている重症のCOVID-19患者の血液を調べたところ、D-セリン、D-プロリン、D-アラニンが低値となっていた。
D-アラニン投与、インフル・COVID-19モデルマウスで重症化を抑制
さらに、低下するD-アミノ酸の補充により症状が緩和できるかを検討した。感染で最も低下するD-アラニンをモデルマウスに投与。その結果、インフルエンザウイルス感染症モデルおよびCOVID-19感染モデルにおいて、感染による体重減少が軽減したり、死亡率が低下したりするなど、重症化を抑制することがわかった。効果は限局的だが、D-アラニンに治療効果があることを示唆しているという。
同研究により、これまで十分できていなかった新型コロナウイルス感染症の重症化予測や治療効果判定、重症化予防が可能になると期待されるとしている。
新規治療薬の開発などに期待
同研究成果を利用することにより、新型コロナウイルス感染症などの重症ウイルス感染症の早期の集中治療や治療開始をすることができるという。D-アミノ酸をバイオマーカーとして、新規治療薬の開発にもつながることが期待される。また、D-アラニンを投与することで症状を緩和させる可能性もある。効果は新型コロナウイルスのみならずインフルエンザウイルス感染症でも確認されたことから、今後のパンデミックにおいても速やかに導入することで、パンデミックにより引き起こされる社会・医療上の問題へ適切に対応する一助となると考えられる、と研究グループは述べている。