■期限1年、12月に供給開始
厚生労働省は22日、塩野義製薬の経口新型コロナウイルス感染症治療剤「ゾコーバ錠125mg」(一般名:エンシトレルビルフマル酸)を緊急承認した。5月に緊急承認制度の運用が開始されて以降、最初の適用品目となる。緊急承認の期限を1年に設定し、今後企業に第III相試験データを提出してもらい、改めて通常承認の可否を判断する。国が全量を買い上げ、12月初めから既存のコロナ治療薬「パキロビッド」の処方実績がある医療機関・薬局で供給を開始する計画だ。
薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会の合同会議が同日に開かれ、緊急承認しても差し支えないと了承された。国産の経口コロナ薬は初となり、新型コロナウイルス感染症を適応症とする薬剤は7種類目、経口コロナ薬は3種類目となる。ゾコーバはプロテアーゼを選択的に阻害することで、ウイルスの増殖を抑える作用機序を有する。既存のコロナ治療薬とは異なり重症化リスク因子のない軽症から中等症患者に投与が可能で、そのうち高熱や強い咳症状、咽頭症状がある人が対象。
加藤勝信厚労相は、合同会議後の記者会見で、「国内企業が創製した初の新型コロナ治療薬となる。新たな治療選択肢として期待でき、安定供給にも意義がある」と述べた上で、「第III相試験の全ての資料が提出される前に速報値等に基づき、有効性を推定の上、通常時よりも早い段階での実用化と言える」と緊急承認の意義を強調した。
用法・用量は、通常12歳以上の小児・成人にはエンシトレルビルとして1日目は375mgを、2日目から5日目は125mgを1日1回経口投与する。妊婦は禁忌でパキロビッドと同様、強いCYP3A阻害作用を有するため、多くの薬剤が併用禁忌、併用注意となった。
承認条件として、企業には国際共同第II/III相試験の第III相パートから適切に有効性が確認された試験成績を取りまとめ、速やかに提出するよう求めた。
ゾコーバをめぐっては、軽症・中等症患者を対象とした第IIb相試験の主要評価項目である抗ウイルス効果でプラセボに対する有意差を示す一方、症状改善効果は有意差が認められず、7月の合同会議では緊急承認の条件となる「有効性の推定」に該当していないと判断し、継続審議となっていた。
主要評価項目や有効性の主要な解析対象集団を変更し、第III相試験を実施した結果、オミクロン株流行期に特徴的な鼻水や咳の呼吸器症状等の症状消失までにかかる時間がプラセボ群と比べて約1日間短縮し、主要評価項目を達成した。
合同会議では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)がゾコーバの第III相試験の速報値について「新型コロナウイルス感染症に対する有効性を足る情報は得られた」とし、有効性が推定された状態に該当するとの考えを示した。
委員からは、パキロビッドと類似の作用機序であることから、緊急承認に定められた代替性の要件を満たせないなどの疑義も出た。ただ、今後、有効性・安全性データの解析を進め、有効性の妥当性を検証することを前提に緊急承認しても差し支えないとの意見が多数を占め、緊急承認が了承された。
緊急承認を受け、塩野義は「パンデミックから人々の健康を守ることに貢献できることを誇りに思う。この新しい治療選択肢をまずは日本の皆さんに、そして必要とする多くの国々に提供できるよう引き続き取り組んでいく」とのコメントを発表した。