炎症性腸疾患で腸管が破壊され腸内細菌が体内に流入、そのとき造血細胞の反応は?
熊本大学は11月18日、大腸炎発症後の組織修復における造血応答の重要性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際先端医学研究機構(IRCMS)幹細胞ストレス研究室の滝澤仁特別招聘教授、神奈川県立産業技術総合研究所実用化実証事業腸内環境デザイングループの福田真嗣グループリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「EMBO J」に掲載されている。
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造血幹細胞は骨髄に存在する幹細胞で、造血細胞の一種として一生を通じて血液を産生する。最近の研究から、個体が細菌やウイルスに感染した際に、造血幹細胞が活性化して、感染と闘うために必要な細胞を多く産生することが明らかになりつつある。一方、細菌の中でも近年の研究で注目されているのが腸管内に生息する腸内細菌だ。腸内細菌叢のバランスの乱れが代謝疾患や心疾患、がんなどにも関与することが知られている。
研究グループは今回、炎症性腸疾患の際に腸管が破壊され、腸内細菌が体内に流入していく過程で、造血幹細胞をはじめとする造血細胞がどのように反応するかについて解析を行った。
骨髄で造血細胞が急激に活性化、付近のリンパ節では組織修復を促進する特殊な細胞に分化
研究では、潰瘍性大腸炎の病態に類似した「DSS誘導大腸炎モデルマウス」を用いて、腸管炎症が起こる過程における骨髄の造血応答を観察した。すると、腸から物理的に離れた骨髄でも何らかの刺激に反応して、造血細胞が急激に活性化していることが判明した。また、一部の造血細胞は血管を通じて、普段はほとんど存在しない腸管近くのリンパ節に移動していた。さらに、そこで造血細胞が腸管組織の修復を促進する特殊な細胞へと分化していることが確認され、炎症後の組織修復が行われていることを突き止めた。
グラム陰性桿菌のBacteroidesが、一連の反応に関与することも判明
実際、分化した組織修復細胞を除去すると腸炎が悪化し、反対に修復細胞を移植すると、腸炎が改善した。これら一連の反応は、腸内細菌の「Bacteroides(バクテロイデス)」というグラム陰性桿菌が、腸炎による組織破壊に伴って体内に流入することで起こることも明らかになった。
Bacteroidesを用いた炎症性腸疾患の予防・治療法の可能性に期待
今回の研究成果により、炎症性腸疾患で苦しむ患者に対して、新たな予防や治療法の可能性が示唆された。炎症性腸疾患の患者ではBacteroidesが減少していることが知られており、例えば、腸内細菌叢移植療法により患者腸内のBacteroidesを増やすことで寛解維持に寄与したり、組織修復細胞を移植することで腸炎を抑えて寛解導入したりすることが期待される。
「今後は、造血細胞がどのように腸管組織を修復する細胞へと分化するのか、また、分化した組織修復細胞がどのような機能を果たして組織修復に関与しているのかについて明らかにすべく、詳細な解析に取り組む予定だ」と、研究グループは述べている。
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