特例承認から約1年、国内60万人以上の新型コロナ患者に投与
国内初となる新型コロナウイルス感染症の経口治療薬「ラゲブリオ(一般名:モルヌピラビル)」の特例承認から約1年を迎えるに当たり、2022年10月19日にMSD株式会社は都内でメディアセミナーを開催し、投与実績や市販直後調査等に基づく安全性等に関する最新情報を開示した。
カイル・タトル氏(MSD提供)
ラゲブリオは2021年12月24日に特例承認され、2022年8月18日に薬価基準収載、同年9月16日に一般流通を開始した。その間、60万人以上の患者の治療に使用された。2022年6月に終了した市販直後調査(約20万例)では、添付文書改訂を要するような安全性事象はなく、同年8月に公開した使用成績調査の中間集計結果(約1000例)でも、安全性・有効性において懸念となる事項はなかったと報告した。
MSD代表取締役社長のカイル・タトル氏は、ラゲブリオの一般流通開始に伴い、医療従事者は本剤を必要とする患者へ迅速な投与が可能となったとし、「将来の新型コロナの流行による影響を最小限に抑えることができるようになる」と強調。引き続き供給能力の強化に取り組む姿勢を明らかにした。
安全性に関しては「おおむね安心」
ラゲブリオの安全性に関して、MSDの白沢博満氏(代表取締役上級副社長執行役員グローバル研究開発本部長)は「完璧とはいえないまでも、企業としてはおおむね安心している」との見解を示した。
白沢博満氏(MSD提供)
有効性に関しては3つの重要な論点があると指摘。1点目として、高齢者や基礎疾患を有する人などハイリスク群に対するラゲブリオの有効性はほぼ確立したと説明した。2点目としては、ラゲブリオの投与によって臨床症状が早期に改善するデータが得られたことを挙げた。3点目として新型コロナ後遺症の抑制への効果については現状では答えが得られていないとし、長期フォローアップの結果に期待したいと述べるにとどめた。
発症早期から治療開始できる経口薬に期待
メディアセミナーでは新型コロナ発生初期から治療に当たっている相良博典氏(昭和大学病院病院長、同大医学部内科学講座呼吸器・アレルギー内科学部門主任教授)が、新型コロナ治療の現状と経口治療薬への期待をテーマに講演した。
相良博典氏(MSD提供)
相良氏はラゲブリオを軽症者の重症化予防のために使用していると説明。昭和大学病院のこれまでの実績では、人工呼吸器を使わなければいけなくなった症例はなかったことから「我々の中では非常に効果がある薬剤として位置づけている」と述べた。
また、新型コロナ治療は早期診断・早期介入が重要であると強調し、軽症の段階から抗ウイルス薬あるいは中和抗体薬等をしっかりと使っていくべきとの考えを示した。したがって、発症初期の自宅や宿泊施設等での待機中に、誰でも簡便に服薬可能な経口薬への期待は大きいとした。
さらに、ラゲブリオの一般流通の開始により、悪化する前の早期(発症5日以内)での服薬が促進されれば、重症化リスクの低減につながると解説。特に、高齢者が重症化し入院に至った場合は医療費がかさむだけでなく合併症のリスクやADLの低下を招くことから、早期治療開始によってそれらが低減される効果に期待を寄せた。