47都道府県の地域差を考慮したBAPCモデルを作成
国立循環器病研究センターは11月15日、将来の循環器病死亡数を47都道府県ごとおよび全国レベルで高精度に予測し、全国レベルの将来の冠動脈疾患死亡数は男性で微減、女性で減少と予測され、将来の脳卒中死亡数は男性で減少、女性で微減と予測、さらに冠動脈疾患と脳卒中の予測発症数は地域差があることがわかったと発表した。この研究は、同センター予防医学・疫学情報部の清重映里リサーチフェロー、尾形宗士郎室長、西村邦宏部長とUniversity of Liverpool Department of Public HealthのDr. Chris KypridemosとProfessor Martin O’Flahertyらの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Regional Health」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
循環器病による死亡は日本の死因の24.8%を占め、今後高齢化の影響でさらに増加するといわれている。また、循環器病の治療・ケアは莫大な医療費を要するため、循環器病死亡の将来動向を精緻に予測することは、健康寿命延伸・医療費抑制の医療政策立案に重要だ。高精度な将来死亡予測には、循環器病死亡数の推移に影響する年齢・時代・世代の効果およびそれらの時間変化を取り込んだモデルが必要と、米国と英国の将来死亡数予測において実証されている。
疾患死亡数の推移に対する年齢・時代・世代の効果とその時間変化を推定可能な手法として、Bayesian age-period-cohort(BPAC)モデルがある。しかし、日本においてBAPCモデルを用いた循環器死亡の高精度な将来予測は実施されていなかった。また、日本の循環器病死亡数は、47都道府県間で差があることが報告されており、この地域差を考慮してBAPCモデルを作成する必要があった。地域差を考慮することは、米国や英国でのBAPCモデルの先行実証においても実施されていない。
そこで研究グループは、政府統計と国立社会保障・人口問題研究所の公開データを基に、47都道府県の地域差を考慮したBAPCモデルを作成した。そして日本全国レベルおよび47都道府県毎の循環器病(冠動脈疾患と脳卒中)死亡数を男女別に2040年まで予測した。
冠動脈疾患死亡数は男性で微減・女性で減少、脳卒中死亡数は男性で減少・女性で微減と予測
研究は日本居住の30歳以上の男女を対象にした。47都道府県ごと・男女別に2020年から2040年の冠動脈疾患と脳卒中の将来死亡予測を求めた後、日本全国レベルの将来死亡数を算出した。
BPACモデルでは、日本全国レベルの将来の冠動脈疾患死亡数は、男性で微減、女性で減少と予測され、将来の脳卒中死亡数は、男性で減少、女性で微減と予測された。なお、BAPCモデルによる予測は、従来手法よりも予測精度が良いという結果を得た。
年齢調整死亡率、冠動脈疾患は都会とその周辺地域で、脳卒中は東北地域でより高いと予測
また、47都道府県ごとの解析からは、ほとんど全ての都道府県においても、冠動脈疾患および脳卒中は今後減少すると予測された。2040年の人口10万人当たりの年齢調整死亡率の予測値の都道府県間比較すると、冠動脈疾患では都会とその周辺地域が他地域より高く、脳卒中では東北地域が現在と同様に他地域より高いという結果が得られた。
循環器病におけるエビデンスに基づく医療政策立案に貢献
今回の研究で、47都道府県の地域差が考慮されたBAPCモデルによる精緻な循環器病死亡将来予測により、日本全国レベルとほとんどの都道府県で冠動脈疾患と脳卒中の死亡数は2020年から2040年で減少する結果を得た。この結果は、医療政策立案者がより良い医療政策を提案することに役立ち、加えて地域差の是正に有用であると考えられる。「今後、the University of Liverpoolとの共同研究を継続し、循環器病対策の費用対効果を精緻に検討し、エビデンスに基づく医療政策立案をサポートする研究を実施する」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース