患者ごとに異なる臨床経過、理由の一つは白血病細胞のDNA変異の違いと考えられる
理化学研究所(理研)は11月11日、血液がんである慢性リンパ性白血病(CLL)患者の臨床経過リスクを層別化する方法を提示したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センタートランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチチームリーダー、ポリン・ロッブ特別研究員らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Genetics」にオンライン掲載されている。
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慢性リンパ性白血病(CLL)は、Bリンパ球が異常に増える血液のがんで、中高年に好発する。CLLに対する治療は近年進歩してきているが、依然として治癒は困難である。これまでの研究で、CLLの臨床経過は患者ごとに異なり、特定の治療法に対する効果もそれぞれの患者で異なることがわかっている。基本的に、がんはDNA変異によって引き起こされ、その変異は治癒しなければ一生涯にわたって発生する。CLL患者ごとに臨床経過が異なる理由の一つは、それぞれの患者で異なる白血病細胞のDNA変異のためだと考えられている。しかしこれまで、白血病細胞のDNA変異は十分に解明されていなかった。
現在、特定の治療法に対する患者の治療効果を予測する手法は、がん抑制遺伝子TP53などがんDNAの単一な変異に焦点を当てているため、個々の患者における治療効果を正確に予測することはできない。そこで研究グループは、「がんの後天的なDNA変異を一度に全て調べることで、治療効果予測の精度を高めることはできないか」と考え、研究を進めた。
患者485人の血液と唾液を全ゲノムシーケンス解析、CLLドライバー186個を同定
研究グループは、英国ゲノミクス・イングランドの10万ゲノムプロジェクトに参加するCLL患者485人からがん組織(血液)と正常組織(唾液)を採取し、全ゲノムシーケンス解析を行った。DNAの配列アラインメントとDNA変異同定のための統計的アルゴリズムを用いて、得られた全ゲノムシーケンスデータのがん組織と正常組織の塩基配列を比較した。その結果、既知および新規のDNA変異、染色体の構造異常、変異シグネチャーなど、全ゲノムにわたりCLLに関連するDNA変異を特定することに成功した。
次に、がんを促進する既知のDNA変異を教師データとして学習させたアルゴリズムを用いて、がんを進行させる可能性のあるDNA変異を予測した結果、既知のCLLのドライバーを含む186個のCLLドライバーを同定した。このドライバーの中にはタンパク質をコードする領域だけではなく、遺伝子の調節に関わる非コード制御因子におけるDNA変異、総変異数、染色体テロメアの長さなど、これまで発見されていなかったCLLドライバーが含まれる。
変異の類似性で分類した5つのサブグループ、特定の化学/免疫療法に対する臨床経過と関連
さらに、これら186個のCLLドライバーに機械学習アルゴリズムを適用し、CLLに関連するDNA変異の類似性により患者ゲノムデータを五つのCLLサブグループに分類した。これらのCLLサブグループが、特定の化学療法および免疫療法に対する臨床経過に対応しているか調べたところ、実際の臨床経過と関連していることが確認できた。患者の18%が含まれる2つのサブグループ(高リスク)は治療完了後早期に再発するリスクが高く、また患者の26%が含まれる一つのサブグループ(低リスク)は治療後に長期寛解を示すことが明らかになった。
層別化に対応する最適な治療を受け、不必要な治療を省くことも可能
今回の研究結果を用いれば、CLL患者を5つのCLLサブグループに層別化して、この層別化に対応する最適な治療を最初に受けることができ、副作用の可能性がある不必要な治療を省くことができる。また、新しい標的療法の臨床試験に最も適した患者の選択にも役立つ。今後、研究において解析しなかった新たな標的療法を受けた患者のデータについて追加解析をすることで、効果的な治療法の予測精度を上げる可能性もあるという。
「また、本研究により、CLLの原因となる可能性がある新たなドライバーが発見された。今後、これらのドライバーに関する研究が進むことにより、CLLの発症・進行のメカニズムが明らかになり、新しい治療薬の開発につながることが期待される。さらに、この研究は、CLLだけではなく、他の多くの種類のがんに応用できる可能性がある。」と、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース