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自殺者は非自殺死亡者に比べ「リチウム」濃度が低い、眼房水解析で判明-東大ほか

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2022年11月14日 AM10:39

体内の微量リチウム濃度が自殺死と関連するかは不明だった

東京大学は11月11日、12人の自殺者と16人の非自殺死亡者の眼房水中リチウム濃度を比較し、自殺者の方が非自殺死亡者よりも眼房水中リチウム濃度が低いことを示したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の安藤俊太郎准教授、東京都監察医務院の鈴木秀人前院長、村松尚範医長、順天堂大学医学部の松川岳久准教授、 社会健康医学研究センターの西田淳志センター長、東京大学大学院教育学研究科の宇佐美慧准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」オンライン版に掲載されている。

世界で毎年70万人以上が自殺で亡くなっているが、日本においても15〜39歳の最も多い死因だ。新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、近年は特に若者における自殺率増加が目立ち、予防策が求められている。

自殺は、生物学的、心理的、および環境的要因の間の複雑な相互作用によって引き起こされ、その生物学的背景は不明だが、ストレス反応システムなどが自殺の素因として推測されている。だが、炭酸リチウム、抗うつ薬、クロザピン、ケタミンなど、自殺を防ぐ薬として提案されている薬は僅かだ。

炭酸リチウムは、1949年に躁うつ病の治療に導入され、気分障害患者を対象としたランダム化対照試験(RCT)で自殺に対する予防効果が示されている。リチウムは、攻撃性と衝動性に対して効果があると考えられているが、商業的側面、治療濃度域の狭さ、副作用のために十分に活用されていない。一方で、疫学研究により普段の生活の中で食物などから体内に取り込まれる微量リチウムの自殺予防効果が示唆されている。リチウムは風化によって土壌に移行し、植物に吸収されて食物連鎖に入る。リチウムは人間の腸管から吸収され、主に腎臓から排出される。近年のメタ解析の結果、飲料水中のリチウム濃度の高さと地域の自殺率が逆相関することが示された。しかし、出版バイアス、生態学的誤謬などの影響も考えられた。

これまでに、個人レベルのデータを用いて微量リチウムと自殺行動との関連について決定的な結論に達した研究はない。救急科に移送された成人患者に関する個人レベルのデータを用いた研究では、血清リチウム濃度は自殺未遂者の方が対照群よりも低いことが示された。さらに、1例のみの研究だが、自殺者の脳内のリチウム濃度が非自殺者よりわずかに低いことが示唆されている。しかし、複数の自殺症例を用いて自殺者と非自殺死亡者の体内リチウム濃度を調べた研究はなく、体内の微量リチウム濃度が自殺死と関連するかは不明だった。そこで研究グループは今回、自殺者と非自殺者の体内微量リチウム濃度を比較することを目的に研究を行った。

血清中リチウム濃度と眼房水中リチウム濃度は有意に相関

研究では、2018年3月~2021年6月まで東京都監察医務院で検案または解剖された29人を対象とした。インフォームドコンセントは、ウェブサイトのオプトアウト法を通じて得られ、三親等以内の親戚が研究参加を拒否した被験者は除外された。死亡方法や服薬情報は警察の調査によって決定され、事故死や死後変化が進行した症例は除外された。

死後変化の影響が少ない眼房水を採取後速やかに4℃で保管し、順天堂大学で誘導結合プラズマ質量分析法を用いてリチウム濃度を測定した。一部の症例では16時間の間隔を置いて2回のサンプル収集を行い、死後変化を検証した。

その結果、血清中リチウム濃度と眼房水中リチウム濃度は有意に相関していた。16時間置いて採取した検体同士を比較したところ、眼房水中リチウム濃度は有意な死後変化を認めなかったという。また、自殺者の方が非自殺死亡者よりも、眼房水中リチウム濃度が有意に低いことが示された(平均0.50μg/L 対 0.92μg/L)。死後時間を考慮に入れた解析においても、自殺と眼房水中リチウム濃度の有意な関係が示されたとしている。

自殺予防として「微量リチウム」の活用に期待

現在、自殺予防の効果が示されている炭酸リチウムも、副作用等のため過小利用が指摘される状況だ。今回、世界で初めて体内の微量なリチウムが自殺と関連することが示されたことは、リチウムの活用に大きな展開をもたらすと考えられる。微量であればリチウムによる副作用等の問題も少ないことが期待できるため、自殺予防としての微量リチウムの活用が展開することが期待される。

「今後は自殺者で体内リチウム濃度が低いメカニズムの解明が求められるとともに、微量リチウムの自殺予防効果の検証が進むことが期待される」と、研究グループは述べている。

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