尿検査や血液検査から捉えるのが困難な病態が存在
東京大学医学部附属病院は11月9日、小児腎臓病患者の尿を用いて、腎機能低下を早期に捉える新たなバイオマーカーを明らかにしたと発表した。この研究は、同病院小児科の張田豊准教授、滝澤慶一助教、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダー、東京大学大学院工学系研究科の一木隆範教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」オンライン版に掲載されている。
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腎臓病の早期発見を目的として、尿を用いた腎臓検診が幅広い年代で行われている。しかし、既存の尿検査では異常を捉えることが困難な疾患が存在する。例えば、小児や若年成人の慢性腎臓病および末期腎不全の最多原因である先天性腎尿路異常は、血尿やタンパク尿などでは検出が困難だ。またそれらの疾患では、尿を濃縮することが難しく薄い尿(希釈尿)となることも、通常の尿検査により異常を捉えることを困難にしている。一方、血液検査で腎機能を評価することも広く行われているが、採血が必要であり、さらに血液検査では腎組織の早期の変化を捉えづらい病態も多く存在する。
腎臓組織自体の変化を反映するuEVsに着目
血液や尿などの体液中には、さまざまな臓器や細胞から細胞外小胞という細胞膜で包まれた小さな構造物が放出されている。研究グループは、尿の希釈の影響を受けづらく、また腎臓組織自体の変化を反映すると考えられる「尿中細胞外小胞(urinary Extracellular Vesicles:uEVs)」に着目した。慢性腎臓病の原因はさまざまだが、原因によらず機能するネフロンが減少を続けると不可逆的な腎機能不全に至る。そこでその変化を、uEVsを用いて捉えることができないか検討した。
慢性的な腎機能低下と関連するuEVsタンパク質発現の特徴的な変化を発見
研究グループは、健常児のuEVsはネフロンのさまざまな種類の細胞から分泌されていることを発見した。次に、小児の慢性腎臓病患者と健常児のuEVsについて、物理的な特徴とタンパク質の発現を比較した。粒子の特徴として、腎機能が低下した患者ではuEVsの大きさが変化することがわかった。そして、先天的に腎臓のネフロン数が減少している低形成腎という疾患の患者で、タンパク質の発現パターンに特徴的な変化があることを見出した。
さらに、この発現パターンの変化を利用すると、さまざまな腎疾患の患者において、腎機能低下をきたしている症例を検出することができた。すなわち、uEVsの特徴を解析することで、尿のみを用いて腎機能の低下を検出できる可能性が示唆された。
新規尿検査法プロトタイプは小児腎機能低下の診断に有用
これらの結果を応用して、uEVs中の特徴的な変化のうち、複数の分子の発現量を簡易的に測定するシステム(尿検査法プロトタイプ)を作成した。実際にこの方法で検査したところ、小児における腎機能低下の診断に有用であることがわかった。uEVsを用いた検査法は、従来の尿検査や血液検査に加え、腎組織の変化を直接捉えることができる新しい検査方法として期待される。
後天的な疾患による腎組織変化を捉える方法の開発にも期待
研究から、uEVsの変化が既存の検査法では検出できなかった腎臓の変化を捉えることができること、またウイルスの抗体検査などでも用いられている簡便なELISAという方法への応用が可能であることが明らかになった。小児と成人では慢性腎臓病の原因も大きく異なる。小児では先天的要因の影響をより大きく受けるが、早期に治療を開始することにより末期腎不全に進行する速度を遅延させる効果があることが知られている。今後、uEVsを用いた方法を検査法として確立することにより、腎臓病の早期診断、予後の改善につながるものと考えられる。「さらにこの手法は、後天的なさまざまな疾患による腎組織変化を捉える方法の開発にもつながると期待される」と、研究グループは述べている。
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