医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > HTLV-1、霊長類カニクイザルの感染モデル確立に成功-NIBIOHNほか

HTLV-1、霊長類カニクイザルの感染モデル確立に成功-NIBIOHNほか

読了時間:約 2分21秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年11月10日 AM11:27

難病のリスクとなるHTLV-1感染、その予防法や効果的な治療法は未開発

(NIBIOHN)は11月8日、ヒトT細胞白血病ウイルス1型()をカニクイザルに安定的に感染させることに世界で初めて成功し、HTLV-1感染霊長類モデルを確立したと発表した。この研究は、同霊長類医科学研究センターの保富康宏センター長、琉球大学の田中勇悦名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Virology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本におけるHTLV-1の感染者(キャリア)数は先進国の中で最も多く、このウイルスの感染症対策は日本が積極的に取り組まなければならない重要な感染症対策課題の1つである。HTLV-1の感染者は全世界では1000〜2000万人、日本ではおよそ100万人と推定され、その中のおよそ5%が長い潜伏期間を経て難病である成人T細胞白血病()やHTLV1関連脊髄症()を発症するリスクを背負っている。HTLV-1が発見されて40年が経つが、HTLV-1感染に対する予防法や効果的な治療法は開発されていない。これらの開発を妨げている高いハードルの1つとして、HTLV-1の感染をシミュレーションできる適切な動物モデルがなかったことが挙げられる。

今回、研究グループは、HTLV-1をカニクイザルに安定的に感染させることに世界で初めて成功し、HTLV-1研究においてカニクイザルがモデル動物として非常に有用であることを示した。感染者のごく一部が発症し、多くの場合は生涯に渡り無症状キャリアとなるHTLV-1感染症の複雑な病態の理解を深め、応用面では予防法・治療法開発研究の加速に大きく貢献することが期待されるという。

ATL患者の末梢血リンパ球由来細胞株を感染源とし、慢性感染症の状態反映に成功

研究グループは、HTLV-1はウイルス単体としてではなく、感染細胞から新たな細胞へ伝染するので、感染モデル作成にあたり、感染源として用いるHTLV-1産生細胞株が重要であると考え、まず高い形質転換能を有する細胞株を選定した。ATL患者の末梢血リンパ球から自然増殖したHTLV-1高産生細胞株であるATL-040をウイルス源として静脈接種したところ100%(6匹中6匹)の確率でHTLV-1をカニクイザルに感染させることに成功した。末梢血中のウイルス量はヒト無症状キャリアと同程度の低いレベルだったが、感染は長期に渡り維持され慢性感染症の状態を反映していた。

ウイルス感染防御を担当するCD8陽性細胞がHTLV-1制御に寄与

次に、ウイルス感染防御を担当する免疫細胞であるCD8陽性細胞(細胞障害性T細胞)をカニクイザルの血液から枯渇させる実験を行ったところ、感染時および慢性感染時において末梢血中ウイルス量の著しい増加が観察され、CD8陽性細胞がHTLV-1制御に寄与していることを見出した。さらに、CD8陽性細胞などの成熟免疫細胞が存在しない脊髄内に直接ATL-040を移入する実験においても末梢血中に高いウイルス量が観察された。これらの結果は、研究グループが確立したカニクイザルのHTLV-1感染モデルがヒトのウイルス感染における免疫制御の状態を反映していることを示している。

今回の研究において、確立されたカニクイザルモデルを用いた免疫制御や感染経路の検討により、宿主の免疫環境に応じてウイルス量が増加することを見出し、宿主免疫によるウイルス制御機構の解明にも役立つモデルであることが示された。「この成果により、有効な治療法がない成人T細胞白血病(ATL)の発症メカニズムの解明とワクチンや治療法の創薬研究の加速が期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大