CTEPH、より簡便・低被曝な診断手法の開発が必要
九州大学は11月9日、連続X線画像の肺内のX線透過性の経時的変化から肺塞栓症を示唆する血流分布異常を評価し、連続X線画像もしくは同時に撮影した胸部単純X線写真内の肺野異常所見を合わせて判断することで、肺塞栓症の診断を行うシステムを、世界で初めて開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院臨床放射線科学分野の石神康生教授、山崎誘三助教、循環器内科学分野の阿部弘太郎講師、コニカミノルタの福元剛智臨床開発グループリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Radiology」に掲載されている。
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肺塞栓症は、肺動脈内に血栓などの塞栓子が詰まることで肺の血流を障害し、呼吸苦や胸痛を起こす。急性と慢性があり、共に生命を脅かしうる重篤な疾患だ。急性肺塞栓症の診断には造影CT、慢性肺塞栓症の診断には換気・血流シンチグラフィが、エビデンスも豊富で、ガイドライン上も推奨される診断法だ。一方で、造影CTは高線量の被曝や造影剤の使用が必須でアレルギーがある者には使用しにくいこと、肺換気血流シンチグラフィは高価な大型装置、被曝検査時間の長さから検査数が制限されるという問題点が存在する(放射性核種を使用するため、CT程ではないが、被曝も存在する)。そのため、造影剤や放射性核種を使用せず、簡便に使用でき、より低被曝な診断手法の開発が医療現場で望まれている。
今回、研究対象とした慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)は、いわゆる慢性肺血栓塞栓症によって肺高血圧症を呈する疾患で、国指定の難病の一つだ。国内患者数約4,600人(令和2年)の希少疾患だが、疾患の認知度の上昇もあり、患者数は増加傾向にある。無治療では極めて予後不良だが、カテーテル治療や外科的治療により予後が劇的に改善することから、早期診断することが極めて重要だ。症状が軽いうちに発見し、治療することが予後にも良好な影響を与えることも報告されている。急性肺塞栓症の合併症として発症することもあるが、そのような既往がないままに原因不明の肺高血圧症を生じて見つかることもあり、診断が難しい疾患だ。先述の通り、慢性肺塞栓症の診断には、肺換気・血流シンチグラフィによる肺血流評価が推奨されているが、必ずしも広く利用されているわけではない状況があり、より簡便かつ低被曝な診断手法の開発が必要とされている。
専門医の読影・後ろ向き検証で診断精度92%
胸部X線動態撮影は、単純X線撮影と同様の装置を用い、7~10秒の息止め間に連続撮影する手法で、15フレーム/秒ほどの連続X線画像が取得できる。造影剤や放射性核種を用いることなく、被曝量も国際原子力機関の定める胸部X線写真正面像+側面像の基準よりも少なく、肺換気・血流シンチグラフィの10分の1程度だ。今回研究グループは、得られた連続X線画像の肺内のX線透過性の経時的変化から肺塞栓症を示唆する血流分布異常を評価し、連続X線元画像もしくは胸部単純X線写真内の肺野異常所見を合わせて評価することで、肺塞栓症の診断を行うシステムを開発した。
CTEPHの検出における有用性を、既存の肺高血圧症50例のデータを用いて、放射線科専門医の読影によって後ろ向きに検証したところ、感度97%、特異度86%、診断精度92%と高い診断能を呈し、ガイドラインのfirst choiceとして定められている肺換気・血流シンチグラフィとも高い一致を示すことが確認された(一致率90%、κ=0.79)。
特許出願中、今後は前向き・多施設共同・医師主導治験を予定
同研究により、胸部X線動態撮影システムが、造影剤や放射性核種を使用せず、簡便に使用でき、より低被曝なCTEPHの新たな診断手法となる可能性を世界で初めて証明した。同システムは現在、九州大学とコニカミノルタ社と共同で特許出願中だ。
今後、前向き・多施設共同・医師主導治験を予定しており、その有用性がさらに明らかになれば、CTEPHの早期検出が可能となり、早期治療介入、さらなる予後改善につながることが期待される。さらに同手法は、急性肺塞栓症にも応用可能と考えられ、重篤な急性疾患である急性肺塞栓症の新たな診断装置としても期待されるという。また、同研究では画像診断の専門家である放射線科専門医の読影による検証を行ったが、将来的には、人工知能等を用いて、非放射線科専門医でも判断可能なシステムとして確立していきたいと考えている、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース