拡張型心筋症、ナチュラルキラーT細胞活性化による治療の有効性は不明
九州大学は11月8日、樹状細胞(DC)を担体としてナチュラルキラーT(NKT)細胞を活性するリガンドであるスフィンゴ糖脂質・αガラクトシルセラミド(αGalCer)を投与する細胞療法により、拡張型心筋症(DCM)の左室収縮機能の低下を改善することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の池田昌隆助教、大学病院の井手友美診療准教授、大学院医学研究院の筒井裕之教授、株式会社メディネットらの研究グループによるもの。研究成果は、「Circulation: Heart failure」に掲載されている。
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DCMは左室収縮機能の低下と左室内腔の拡張を特徴とする原因不明の指定難病であり、国内における左室補助装置の植え込みや心臓移植を必要とする重症心不全患者の約7割を占める心筋症である。さまざまな治療にも関わらず、DCMは進行性の予後不良な心筋症であり、新規治療法の開発が期待されている。
研究グループはこれまでに心筋梗塞後に発症する虚血性心筋症に対してαGalCerを用いたNKT細胞の活性化が心不全を改善することを明らかにしてきた。しかしながら、ヒトではαGalCerの投与は肝毒性を生じること、また反復投与によりαGalCerに対してNKT細胞の活性化が生じなくなること(アナジー、免疫不応性)から、本治療の臨床応用には大きな課題が残されていた。さらに、重症心不全患者の約7割を占め、新規治療が望まれているDCMに対するNKT細胞活性化による治療効果は明らかでなく、DCMにおけるNKT細胞活性化の有効性の検証が期待されていた。
αGalCer/DC、DCM発症マウスへの投与で心機能低下抑制と生命予後改善
研究グループはαGalCerの肝毒性およびアナジーを克服するために、体外に単離・培養したDCにαGalCerを添加することにより、DCを担体としてαGalCerを投与するαGalCer/DC細胞の製造技術を構築した。次に、遺伝子改変によりDCMを自然発症するマウスにおいて、作製した細胞製品の有効性を検証した。αGalCer/DC細胞の投与により、活性化したNKT細胞が心臓に集簇し、DCMの経時的な心機能低下が抑制され、生命予後が改善することを明らかにした。
NKT細胞が分泌のIFNγがTGF-βの作用を抑え心臓線維化を抑制、Angpt-1を増加
治療によりNKT細胞を活性化させたDCMの心臓の遺伝子変動を網羅的に解析することにより、心機能の改善は心臓線維化を抑制することと、血管新生を促進することに起因していることがわかった。活性化したNKT細胞はさまざまなサイトカインを分泌し、生体の免疫応答を制御するが、DCMではNKT細胞から分泌されるインターフェロンγ(IFNγ)が心臓線維化の主たる制御因子であるTransforminggrowthfactor(TGF)-βの作用を抑制し、血管新生の促進因子であるアンジオポエチン-1(Angpt-1)の発現をSTAT1という転写因子を介して増加させていることを見出した。
同大において、DCMを含む慢性心不全を対象に本細胞製品を用いた安全性試験(第1/2a相医師主導治験)が完了し、現在、多施設にて医師主導治験(第IIb相)が進行中であるという。「αGalCer/DCを用いた新たな治療法の開発により、心不全に対する新たな治療が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果