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梅毒の国内症例報告1万例超、感染症法施行以降で初-感染研

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2022年11月09日 AM11:18

前年同時期比で約1.7倍、東京都2,880例、大阪府1,366例

国立感染症研究所は11月7日、「IDWR 2022年第42号<注目すべき感染症> 」を同研究所のウェブサイトに掲載した。2022年第1〜42週(2022年1月3日〜10月23日、2022年10月26日週報集計時点)に診断された症例報告数は1万141例であり、感染症法が施行された1999年以来初めて1万例を上回った。これは感染症法施行以降、年間報告数が過去最多。2021年の同期間における報告数6,031例(2021年10月27日週報集計時点)と比較しても、約1.7倍と高い水準であったとし、注意を呼びかけている。


画像は感染研サイトより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

具体的には、男性6,704例、女性3,436例で、男女共に昨年同期間(男性4,006例、女性2,025例)から約1.7倍に増加していた。なお、性別が不明の症例数は男女別の集計に含まれないため合計値が一致しないことがある。また、当該週に診断された症例の報告が集計の期日後に届くことがあるため、直近の週は、過小評価される傾向があることに注意を要する。

2022年第1〜42週に診断された症例の都道府県別報告数上位5位は、東京都2,880例、大阪府1,366例、愛知県573例、北海道443例、福岡県409例であった。また、10万人当たり報告数の上位5位は、東京都(21.3)、大阪府(15.5)、広島県(12.8)、熊本県(8.6)、香川県(8.3)であった。同期間に診断された症例の5歳毎の年齢群別年齢分布については、男性は20〜54歳の幅広い年齢群で多く報告されており(5,578例、83%)、最も多い年齢群は25〜29歳(883例、13%)であった。女性は20代に多く報告されており(2,001例、58%)、最も多い年齢群は20〜24歳(1,252例、36%)であった。

早期顕症梅毒が7,853例、感染経路は異性間性的接触が最多

2022年第1〜42週に診断された症例の病型別報告数は、早期顕症梅毒が7,853例(報告数全体の77%)と最も多く、男性は5,558例(男性報告数全体の83%)、女性は2,294例(女性報告数全体の67%)であった。なお、早期顕症梅毒は最近感染したことを示しており、最も感染力の高い病型とされている。

感染経路別(重複例あり)では、男性は異性間性的接触4,360例(65%)、同性間性的接触964例(14%)、その他・不明1,404例(21%)であった。また、女性は異性間性的接触2,790例(81%)、その他・不明646例(19%)であった。なお、直近6か月以内の性風俗産業の利用歴・従事歴については、2022年第3四半期(第27〜39週)に診断された症例において、男性921例(40%)が利用歴あり、女性490例(40%)が従事歴ありと報告された。(「日本の梅毒症例の動向について」(2022年10月5日現在)より)。

女性症例の増加に伴う先天梅毒の増加が懸念

2022年第1〜42週に診断された先天梅毒は16例であった。なお、過去の同期間に診断された先天梅毒の報告数は、2020年は14例、2021年は15例であった(それぞれ2020年10月21日、2021年10月27日週報集計時点)。近年、先天梅毒は年間20例前後報告されており、2013年以前の概ね10例未満と比べて高い水準となっている。

妊娠症例は、2019年は208例、2020年は185例が報告されており、ともに妊娠に関する記述のある症例(2019年1,803例、2020年1,595例)の約12%であった(「感染症発生動向調査における梅毒妊娠症例2019年〜2020年」より)。

梅毒の報告数は2019〜2020年には減少したものの、2021年から再び増加している。報告都道府県としては東京都と大阪府が特に多いが、報告数の増加は全国的にみられる。近年の増加の背景として、男女の異性間性的接触による報告数増加が認められる。また女性症例の増加に伴い、今後の先天梅毒の増加が懸念される。

梅毒は母子感染の面からも公衆衛生上重点的に対策が必要

梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subspecies pallidum:T. pallidum)による細菌性の性感染症で、世界中にみられる。梅毒は、患者数が多いこと、比較的安価な診断法があること、ペニシリン等治療に有効な抗菌薬があること、また感染した妊婦への適切な抗菌薬治療により母子感染の防止につながることなどから公衆衛生上重点的に対策をすべき疾患として位置付けられている。

T. pallidumが粘膜や皮膚に侵入すると、典型的には数週間後に侵入箇所に初期硬結や硬性下疳がみられ(I期顕症梅毒)、いずれも無痛性であることが多い。その後数週間〜数か月間経過するとT. pallidumが血行性に全身へ移行し、典型例では全身の皮膚や粘膜に発疹を生ずるが、その他にも肝臓、腎臓など全身の臓器に様々な症状を呈することがある(II期顕症梅毒)。発疹は多岐にわたり、丘疹性梅毒疹、梅毒性乾癬、バラ疹などが高い頻度で認められる。これらI期とII期の梅毒を早期顕症梅毒と呼ぶ。無治療であっても、多くの場合、I期の症状は数週間で、II期の皮膚粘膜病変は数週間〜数か月で消退する。無治療の場合、感染後数年〜数十年後に、ゴム腫、心血管症状、進行麻痺、脊髄癆など晩期顕症梅毒を引き起こすことがある。なお、神経梅毒はどの病期でも起こりうる。また、梅毒が治癒しても、再度罹患する可能性がある。

妊婦がT. pallidumに感染するとT. pallidumは胎盤を通じて胎児に感染し、流産、死産、先天梅毒を起こす可能性がある。先天梅毒には、生後まもなく皮膚病変、肝脾腫、骨軟骨炎などを認める早期先天梅毒と、乳幼児期は症状を示さず、学童期以降にHutchinson 3徴候(実質性角膜炎、感音性難聴、Hutchinson歯)を呈する晩期先天梅毒がある。

2021年9月にベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤が国内製造販売承認

T. pallidumは試験管内では培養ができないため、顕微鏡観察による病変由来検体中の菌体の確認、血清中の菌体抗原およびカルジオリピンに対する抗体の検出、PCR検査等によるT. pallidum遺伝子の検出等で梅毒と診断する。

治療にはペニシリン系抗菌薬が有効であり、国内では日本性感染症学会によりアモキシシリンの経口投与や、神経梅毒に対してはベンジルペニシリンカリウム点滴静注による治療が推奨されている。また2021年9月には、梅毒の世界的な標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤の国内での製造販売が承認された。

梅毒は5類感染症、2019〜2020年にかけて一旦減少したが2021年以降再度増加

梅毒は1999年より感染症法に基づく感染症発生動向調査における全数把握対象疾患の5類感染症に定められ、診断した医師は7日以内に管轄の保健所に届け出ることが義務づけられている。2019年1月1日から届出様式が変更され、妊娠の有無、直近6か月以内の性風俗産業の従事歴および利用歴の有無等が届出内容に含まれた。梅毒患者報告数は1948年以降、小流行を認めながら全体として減少傾向であったが、2011年頃から増加が続いており、2018年には7,000例近くの症例が報告された。その後2019〜2020年にかけて一旦減少したが、2021年以降再度増加に転じている。

感染リスクが高い集団に対する性感染症予防教育が重要

感染症法施行以降最も梅毒報告数が多い現状を踏まえると、今後の梅毒の発生動向を引き続き注視するとともに、今回の記述から示唆される感染リスクが高い集団に対して啓発を行っていくことが重要である。具体的な啓発のポイントとしては、不特定多数の人との性的接触が感染リスクを高めること、オーラルセックスやアナルセックスでも感染すること、コンドームを適切に使用することでリスクを下げられること、梅毒が疑われる症状、例えば性器の潰瘍が自然消退したとしても医療機関を受診する必要があること、梅毒が治癒しても新たな梅毒の罹患は予防できないことなどが挙げられる。

先天梅毒を予防するには、梅毒スクリーニング検査を含む妊婦健診の推進、妊娠中に少しでも心当たりや疑わしい症状があった際の積極的な梅毒検査の実施、梅毒と診断された時の早期治療の実施、妊娠中の安全な性交渉に関する啓発等が重要である。

医療機関では梅毒の早期診断、早期治療、ハイリスクと考えられるパートナーへの性感染症予防教育や、他の性感染症の疑いで受診した人への梅毒の検査・治療を推進することが重要である。なお、梅毒の陰部潰瘍はHIVなど他の性感染症の感染リスクを高めるという点も留意する必要がある。

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