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IBSモデルマウス候補を発見、情動ストレスで腸の組織異常なく病態再現-東京理科大

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2022年11月09日 AM10:57

従来のIBSモデル動物は腸の組織変化を伴うなど、IBSの病態を再現できていなかった

東京理科大学は11月7日、代理社会的敗北ストレスモデルマウスが、腸内に組織学的異常がないにも関わらず、腸のぜん動運動の亢進および内臓痛関連行動の増加という下痢型過敏性腸症候群()様症状を示すことを見出したと発表した。この研究は、同大薬学部薬学科の斎藤顕宜教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

研究グループは、先行研究により、精神的ストレスを繰り返し与えられた「代理社会的敗北ストレス(chronic vicarious social defeat stress:cVSDS)」を用いて、精神的ストレスが脳の海馬に与える影響を解明した。うつ病患者の多くは、精神症状だけでなく、便秘や下痢などの症状を呈することが知られている。また、IBS患者の約半数が何らかの精神疾患を患っていることが報告されている。このように、脳と腸には深い関連性(脳腸相関)があることが近年わかってきた。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、脳に次ぐほど多くの神経細胞が分布し、自律神経系や内分泌系を介して脳と密接に連携している。

IBSの特徴としては、腸の運動機能異常と知覚過敏が挙げられる。強いストレスを感じると、脳から腸にその情報が伝えられ、腸の収縮運動に異常が生じる。また、腸からの情報は脳に伝えられるが、IBSでは知覚過敏状態となっており、弱い刺激でも知覚が生じる。これにより腹部膨満感や腹痛、下痢、便秘などの症状を呈す。この症状は人によって異なり、排便回数と便の形状から「下痢型」「便秘型」「混合型」「分類不能型」に分けられる。

IBSは腸に組織学的な異常がないことが特徴だが、従来のIBSモデル動物では、身体的ストレスの影響や、腸内の組織学的変化が見られたことから、IBSの病態を再現するものとはなっていなかった。

情動ストレスマウス(cVSDSモデルマウス)で、慢性的な腹部異常が示唆された

今回の研究では、マウスを、ストレスを与えないナイーブ、身体的ストレスを与えるPS(physical stress)、情動ストレスを与えるES(emotional stress)(cVSDSモデルマウス)の3種類に分け、1日あたり10分、10日間連続で各ストレスを与えた。

まず、各ストレスが腸のぜん動運動に与える影響を評価するため、これら3種類のマウスに、チャコールミール試験(charcoal meal test:CMT)を実施。この試験はチャコールミールをマウスに経口投与し、腸内での移動率を測定するものだ。移動率が高いほど、腸のぜん動運動が盛んであることを示す。その結果、ESマウスでは、ナイーブマウスに比べて移動率が著しく上昇。一方、PSマウスではそのような上昇は見られなかった。このことから、情動ストレスが腸のぜん動運動を亢進させることが示唆された。また、ESマウスでは、ストレス負荷期間中に、排便回数、便総重量、および便水分量の漸増が見られた。このことから、情動ストレスがマウスに下痢様症状を誘発することが示唆された。

次に、ESマウスの内臓痛を評価するため、カプサイシン誘発性痛覚過敏試験(capsaicin-induced hyperalgesia test:CHT)を実施。この試験は、カプサイシンをマウスの直腸内に投与し、内臓痛関連行動とされる「下腹部を舐める」「腹部を床に押し付ける」「跳び上がる」回数を測定するものだ。試験の結果、ESマウスでは、カプサイシン投与群でもカプサイシン非投与群(対照実験区)でも、ナイーブマウスに比べて「下腹部を舐める」回数が著しく増加。また、カプサイシン投与群のESマウスでは「腹部を床に押し付ける」回数と、「跳び上がる」回数が増加した。このことから、情動ストレスが腹部の痛覚過敏を誘発することが示唆された。なお、ESマウスにおけるCMTおよびCHT両試験の結果は、ストレス負荷から30日経過後も持続していた。このことから、ESマウスが慢性的な腹部異常を呈していることが示唆された。

情動ストレスマウス、上皮構造・炎症の有無など通常マウスと差異なし

続いて、ESマウスの腸の組織学的状態を評価するため、小腸および大腸の組織を採取して観察した。その結果、ナイーブマウスとESマウスでは、上皮構造および炎症の有無などについて、特に差異が見られなかった。この結果から、情動ストレスは腸の組織学的状態には影響を与えないことが示唆された。また、FITC標識デキストランを用いて腸管透過性を調べると、ESマウスとナイーブマウスでは差異は見られなかった。このことから、情動ストレスは腸管透過性にも影響を与えないことが示唆された。

最後に、IBS患者の臨床治療によく用いられる漢方の桂枝加芍薬湯を、ESマウスとナイーブマウスに投与。すると、ESマウスにおいて、CMT試験での移動率が低下した。一方、ナイーブマウスでは影響が見られなかった。このことから、桂枝加芍薬湯は、腸管運動を調節することが示唆された。

cVSDSモデルマウス、下痢型IBSモデル動物となる可能性

今回の研究成果について、斎藤教授は「本研究により、ESマウスが下痢型IBSモデル動物となる可能性が示唆された。新規IBSモデル動物としてのESマウスは、今後の新規治療薬開発に重要な役割を果たすものと期待される」と述べている。

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